みかぽん

ヤクザと家族 The Familyのみかぽんのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.0
作品を観るうちに、今から20年以上も前の記憶が蘇ってこの物語と重なり、少し切なくなった😢。
(すみません、ちょっと長いです…)

その日は同僚から評判のメンチカツを売る精肉店の話を聞き、早速、仕事帰りに立ち寄ってみた。遅い時間のせいか案の定、それは売り切れ。落胆しながら、しかし今から夕食を作る気力もないままでいると、なんと併設の食堂があるではないか。
オンナ独りメシ、しかもメンチカツ定食に若干の気恥ずかしさを感じながら、そのまま暖簾をくぐる。すると先客がいて、しかもそれが初老の女性であったことが微妙な安心感になり、きまり悪さを半減させてソソと席に着いた。

程なく、店主のいらっしゃい、の声と共に夫婦と思しき二人連れが現れた。
客の男性には穏やかな笑みと上品さがあるのに、連れの女性は綺麗だけどかなり気が強そうなクロウトさん風。この二人、夫婦なのかなぁ、と勝手に想像していると、奥さんは〇〇ね?と店主が注文を取る声を聞き、へぇ〜やっぱそうなのかぁ、と再びひとりで納得。
すると、その温和そうな男性が店主を再び手招きし、二人はボソボソ話し込む。程なく奥の初老女性にビールが運ばれ、店主が「あちらのお客さんからです」と彼女に告げたのだ。
戸惑う女性に温和そうな男性は片手をあげて、「奥さん、今日は一日どんな日だった?一杯飲んで楽になんなよ」と笑顔で声を掛けた。
すると女性は状況を飲み込んだのか、泣き笑いのような表情になり「実は3か月前にね、主人をがんで亡くしてね。すると今度は息子が交通事故に遭って意識不明になっちゃって。だから今日も私、息子を見舞った帰りなんですよ」と返した。
これに対して男性は「そうだったの…」と呟くように返すと少し間を置き、「奥さんね、俺んちはこの先の〇〇の向かいなんだけど、もうすぐクリスマスだろ?だから家の周りを賑やかくライトアップさせてるんだよ。そうすれば前を通る人皆んな楽しくなるかなぁ、て思ってね。もし通り道になる時にはさ、見てやってよ。そしたら奥さんも少しだけ気持ちが晴れるかも知れないからさ」と続けたのだった。
お礼を言う女性。立ち上がって店を出る二人連れ…。

先程までうつむき、丸まった姿勢の人とは別人のように背筋を伸ばすその女性は、明らかに興奮しながら店主に向けて、「今の方はどちら様かしら⁈」と問うた。
すると店主は少し勿体をつけた小声で、「あの人?あの人はねぇ、、〇〇組の組長なんだよ…」と、くすくす笑いながら返した。
目を見開いて驚くのは彼女だけでなく、私も口あんぐりのまま数秒固まった。
だって面持ち自体がイメージにあるヤクザと真逆にあり、しかも一瞬で彼女の心持ちを見抜いてしまう眼力に加え、優しさの実行動までもを備えていたのだから!
私はその意外性に唸り、感動すら覚えていた。

しかしこの初老女性は違っていた。唖然とした表情の後に両目をキョロキョロさせるとクスクス笑い、えぇ〜⁈ やだ私、ビール飲んじゃったわ。怖い怖い。やだやだ、と呟いたのだ。
私はそれを聞き(全くの他人事なのに)言いようのない不快感が込み上げて来た。
その人がヤクザであろうと無かろうと、人の優しさに対して最低限の礼儀もないんですか?と、心の中が一気にざわついたのだ。→そしてもう一人の冷静な自分が、オイオイあなたったら別な意味での任侠精神発揮?と冷やかしてもいたけれど…😅😅。
仮に女性が、「怖い人でも、偉くなった人はひと味違うねぇ」位に返していれば、おそらくこんなに長く記憶に残りはしなかったように思う。その筋の人、と言うことで、例えそれが心からの優しさであっても〝おぉ怖い、ヤダヤダ〟になってしまう女性と店主のやり取りが、ある種の衝撃として私の心の中に残ったのだと思う。

以後、私はクリスマスシーズンになると、その家のイルミネーションを気にするようになった。そして条件反射のようにあの日を蘇らせていたが、ある年以降、イルミネーションは全く灯らなくなり、窓の明かりすらなくなり、遂に家は無人となった。

それは確かに、暴対法が施行された以降と重なっていたように思う…😧😧。
みかぽん

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