みかんぼうや

ヤクザと家族 The Familyのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.0
実際に鑑賞するまで、なぜか西川美和監督の「素晴らしき世界」のような元ヤクザの一個人が社会復帰を通じて人々に溶け込んでいくような話を想像していたが、本作は作中で20年間という月日を描くという、よりヤクザ社会全体の変遷を描いており、一つの完成されたフォーマットとして、ヤクザ映画というジャンルそのものに引導を渡すかのような作品だと感じた。

「ヤクザと家族 The Family」というタイトルがなんとも秀逸。この作品の“家族 The Family”が持つ意味は、ヤクザ本人視点から描くヤクザという組織体の家族的絆こそ容易に想起させるが、実は作品を観て後半に差し掛かっていくにつれ、その周りの人々の視点から、もう一つの“家族”の持つ意味が描かれていくことになる。ラストシーンには、それがしっかりと凝縮されていた。

正直なところ、ややドラマチック過ぎる展開と演出ではあったが、時代から取り残され虐げられていく哀愁を演出するにはこれくらいが必要だったのかもしれない。エンタメ性も含め、個人的にはちょうど良かった。

綾野剛、プライベートで引っ掛かることが多い俳優だが、やはり演技は巧い。20年の月日で、イケイケの若者時代から時代に取り残され孤独になっていく末期まで、難しい役だと思うが、違和感なく演じていた。

一方、フィルマのレビューでとても高い評価の舘ひろし。初登場シーンのオーラが凄まじく、「やっぱり舘さん凄い!」と心震えたが、話が進んでいくと、ヤクザの親分としての凄みより、表情も声色も優しそうなオジサン(お父さん?)という印象のほうが勝ってしまい、こちらは実は最後まで違和感が抜けきれず。人としての魅力は感じたけれど。

ただ、脇を固める豊原功補、尾野真千子、磯村隼人あたりも存在感があり、作品全体のキャスティングは全体的にハマっていて、それぞれの登場人物にもどこか愛着がわくことで、物語全体への没入感は非常に高い作品だった。
みかんぼうや

みかんぼうや