とり

日本沈没のとりのレビュー・感想・評価

日本沈没(2006年製作の映画)
2.3
劇場で「特報」を初めて観た時のトキメキ。あれは良かった。公開は来年の夏かぁ…遠いなぁ~と待ち遠しかった。
その後何度かの予告編やテレビCMを見るにつれてイヤな予感がどんどん膨らみ、実際に鑑賞してみた感想も残念ながらそのイヤな予感の方向色が強い出来でした。

草なぎと柴咲の恋愛ストーリーメインで、日本が沈んでしまうなんて要素はこの映画では大した問題ではないって感じ。しかも肝心の2人の演技がかみ合ってないような?
本当に惹かれあう2人だったのかどうか、演技力プラス脚本の弱さを感じてしまった。2人の恋は混乱する状況下での錯覚、吊り橋効果、気の迷いだったのでは?それくらい半端な恋愛映画。
メインの2人にくわえて全体的にキャスティングがどうも違和感あるというか、合ってないよ~。柄本明くらいかな、ハマリ役だったのは。

まぁいわゆる「いつもの人たち」が出まくる「いつもの邦画」なので、キャスティングについてあれこれ言うのは野暮なのかもしれません。この辺で日本映画界の層の薄さを感じて悲しい。
ただしいつもの人たちでも演出によっては凄くハマっていい映画ができることもあるし、実力派俳優さんたちも確実に存在してるわけで、その辺が日本沈没では上手くいっていないように感じた。
メインの人々を深く描ききれていないのに、妙に細かいところでの遊びが多いような気がするというか、身内びいきな感じがちょこちょこと。
何気ないワンシーンのはずなのに、おそらくカメオ出演への気遣いなんでしょう、演出が妙に浮いていて意味ありげなシーンが多すぎ。そこでいちいち観てる時の意識を中断させられてしまう。遊び心はあってもいいと思うし私も好きではあるけど、メインそっちのけってのがどうも好かん。

脚本を書いた人は一体全体何を伝えたかったのか。日本が沈没しても次の大陸が見つかればそれでいいのか?日本が消えてしまうという事実を目の前にした出演者の反応にどうしても違和感を覚えてしまう。表面上はショックを受けてるようには見えたけど、今風の若者的というか、あっさりしてますなー。
かと思うとPC大破壊までしてしまう悲劇のヒーロー入りすぎの自分に酔った人がいたりと、超極端。絶望感をあらわすシーンがどうもダメでした。スクリーンと客席との温度差っていうんですか。
首相自身が「一番しっくりくる」と言っていたセリフだけが救いでした。

そんなこんなで特撮技術は確かに日本映画としては上出来、期待通りの満足度ではあったのでまぁ観て良かったですが、それは技術面だけの話で、破壊映像の裏にある美学とかカタルシスとかそういうものは一切なかった。
この辺、新発明は苦手だけど真似事だけは上手い日本人の特徴がイヤというほど出ました。芸術は真似事だけでは心は動かされないからね。
有名スポットを次から次へと破壊していくシーンは「こういうのやってみたかった!」という気持ちだけで撮影したのでは?だからよく見知った風景が壊れていくシーンを見せられても「おー!おもしろいおもしろいー!(笑)」とショーでも見てるような気分にはなっても「ああ、我々の思い出が⋯愛する街が・・・」なんて気持ちが一切わきません。この辺、同じシーンを予告編で見て胸が高鳴った時の気持ちを思えば納得できる。予告編では状況が一切わからず、破壊映像の裏にある何かを自分の中で想像する余地があるけど、完成版で観てしまうとそこにもっていくまでの演出の稚拙さにガッカリ、みたいな。

とにかく何か物足りない映画でした。ハリウッド風大作っぽい作りのわりにこの物足りなさ。どうせならいっそハリウッドにお任せして日本を破壊しまくってもらった方が良かったのではないでしょうか。日本人が作る日本ならではの日本沈没ではなかったような気がする。
MOVIX三郷
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