KnightsofOdessa

風が吹けばのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

風が吹けば(2021年製作の映画)
2.0
[草原が燃えても、アスファルトで止まるはずさ] 40点

すっかりイケオジになったグレゴワール・コラン扮するアラン・デラージュは空港監査官としてナゴルノ・カラバフ共和国の空港に送り込まれる。辺りは一面の草原と低い山々に囲まれているが、国境という名の停戦ラインがすぐ近くにあるため、悪天候時の旋回が出来ず、空港の開港は到着早々に絶望的だ。そんな彼を、現地の人々は歓迎し、自身の経験した恐ろしい紛争、ユーゴ内戦の陰に隠れて西欧の人々には気付きもされなかった凄まじい戦争について思い返していく。それと呼応するように、未来を担う世代の代表として、永遠に飛行機の来ない時間の止まった空港に自由に出入りする少年が登場する。彼は空港の水道から得た水を大きなペットボトルに入れて、それを都市部の病院や工場の人に綺麗な水として売って生計を立てている。この"綺麗な水"は、決して得られることのない"空港の恩恵"を可視化しており、それを伝道師のように広め歩く彼の姿こそ、未来を象徴しているといえるだろう。

しかし本作品が、悪く言えばセコいのは、登場人物たちがアランに対して忌まわしい戦争の記憶を押し付けて同情を誘い、国の未来に絶対必要な空港開港を押し切ろうとしている様に見えるとこだろう。単純に戦禍を伝えたいならシンプルに下手くそだし、そういう無用な多重解釈を生むように作るのは失礼だと思う。アランが運転手や空港の偉い人と距離を近付けるほどに、精神論的な部分を押し付ける映画に辟易していった。

映画は"テメエらが観てえのはこれだろ?!"といった風に、唐突に戦場に赴く。そして、アランの起こした波風が大きな言い訳となって開港は中止される。彼はレポーターの"何が見たかったの?"という質問には答えないが、私は彼が変えられない未来を西欧の罪に変換して独りで被ろうとしたんじゃないかと思っている。そんな、なろう系主人公じゃあるまいし、意味分からん英雄的行動は迷惑なだけなんだが、それこそが西欧の行動に他ならないのだろう…か?いや、流石にそこまでじゃないか(じゃ分からんわ)。
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