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スザンヌ、16歳のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

スザンヌ、16歳(2020年製作の映画)
3.5
[16歳の春、あなたとの出会い] 70点

ヴァンサン・ランドンとサンドリーヌ・キベルランの娘スザンヌ・ランドンが、弱冠20歳にして初監督長編を世に放ち、それがカンヌレーベルに選出された。主人公は監督本人が演じており、自身が高校に入学する直前に感じた"所在のなさ"を架空の女子高生に日記として綴っていたものを原作としているらしい。同級生たちは子供っぽいな…とまではいかないが、彼らのノリに合わせきれない16歳のスザンヌは、彼らの輪の中にいても交流がほとんどない。そんな彼女は下校中に通る劇場前で20歳年上の俳優ラファエルに一目惚れする。彼女は自分よりも彼に年の近い父親に"スクーターはすぐに直せるか"とか、"スカートとパンツどっち派か"とか、色々と尋ねて練習を重ねる。学校生活に飽きたスザンヌと俳優生活に飽きたラファエルには共通点が多いように見えて、二人は惹かれ合っていく。

本作品は、監督の頭の中にある映像/エピソードをパッチワークのように繋げただけという印象をまず受けるが、"あなたが好きだから!"という盲目的な感情がほか全ての出来事や感情を暴力的に破壊していった後のきれいな表面を見ているかのようで、ある種の爽やかさが残るのが非常に良い。父親とも母親とも姉とも仲が良く、別に見下しているわけではないので同級生とも仲が悪いわけではない(良いわけでもない)というファンタジックな世界観も、監督の今の感覚に近いからこそ出せる瑞々しさの暴力性にマッチしている。ただ、スタイリッシュな芸術映画ぶろうとする中途半端なミュージカル描写は鼻につく。ファンタジックな世界観に反さないためにマイルドな表現へと置換した結果だとは思うが、少々浅はかに見えてしまうのは、上記の"パッチワーク"という点に起因している。

また、フランス本国ではスザンヌとラファエルの年齢差が本編で言及される以上に注目されている。それは、ロマン・ポランスキーやリュック・ベッソン、クリストフ・ルッジアなど多くの映画監督が未成年の女優に対する性的虐待を告発される中で、本作品がそれを逆流するような無邪気な作品だからだろう。二人の接触はミュージカルシーンによって、よりマイルドな表現に置き換えられていて、作品そのものは(このテーマに関して)無味無臭といった感じだが、逆にこの問題に対するアンチテーゼというわけでもない。そこで機能してくるのが"架空の"という言葉だ。リンドンは退屈で憂鬱な学生生活の中で、そのコミュニティから連れ出してくれる理想的な"白馬に乗った王子様"を具現化したのだろう。

本作品はジョアンナ・ホッグ『The Souvenir』のフランス版とも言えるかもしれない。同作ほど凝ったショットがあったわけではないが、瑞々しさの爆発力はそれを超えるものがある。スザンヌ・ランドンの掠れた声と半開きの口から覗く前歯が最高の一本。

追記
そんなに観たわけじゃないが、もし開催されてたならカメラドールは本作品になる気がする。カメラドール候補作はほぼ観てないから勘だけども。
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