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運命の回り道/リンボーのたくのレビュー・感想・評価

運命の回り道/リンボー(2020年製作の映画)
3.6
スコットランドの孤島で難民認定を待つ人々を描いてて、祖国にとどまって国のために戦うべきか、国を離れて個人としての人生を送るか葛藤する青年にスポットが当てられる。全編に流れる荒涼とした風景が彼の閉ざした心を表してるようで印象的だった。

冒頭、難民申請を待つ人々が支援センターに集められて社会復帰のための授業を受けてるところからいきなりシュールで、本作はコメディなのかと思ったけど内容はいたってシリアス。シリア人のオマールはウードという民族楽器の演奏家で、難民認定を待つ間にウードを常に肌身離さず持ち歩いてるんだけど、腕を怪我してて演奏することができない。ところが怪我が治っても楽器の音が変わってしまったという理由で頑なに演奏しようとしない。これはウードが内戦下のシリアから一人逃れて難民認定を受けようとしたことで国のために戦おうと留まった兄と疎遠になってて、それが心に棘のように刺さってることから来てるように思える。

オマール同様に難民認定を待つ人々が登場し、事務員になることを夢見るファラハドやサッカー選手になりたいワセフと弟のアベディが登場して、オマールとのちょっと可笑しな交流が描かれる。みんな認定が下りると信じて前向きに生きてるんだけど、オマールは昔に戻りたくて過去の自分のコンサート映像を何度も観返し、周囲に対して心を閉ざしていくのが対比的に描かれる。

ラストのコンサートでアスペクト比が拡がるのが、オマールの吹っ切れた心情を表してるようだった。最後に楽器演奏で締めくくるところに、不法滞在の移民と大学教授の交流を描いた「扉をたたく人」を思い出す。原題の”Limbo”は調べると「辺獄」で、意味は「洗礼を受けずに(原罪のままで)死んだが、地獄には行かない人がとどまると考えられた場所」とのことで、孤島に留まり難民認定を待つウードの葛藤を象徴してると思った。そういえばYMO「サーヴィス」の1曲目が「LIMBO」だったね。
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