KnightsofOdessa

In the Dusk(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

In the Dusk(原題)(2019年製作の映画)
1.5
[リトアニア、偽りの平和の夕暮れ] 30点

1948年、リトアニア。戦争は終わったが復興は一向に進まず、人々は暴虐なるソ連によって蹂躙されていた。田舎の村の地主の息子として暮らすウンテは、思春期に入って実家の仕事を適当にこなしながら辺りをフラフラしているおり、その中で自身の複雑な家庭環境を知ることになる。ほとんど顔も合わせず、長らく部屋に引きこもる老母は古い地主一族の娘で、未だに"母さん"と呼ばせずに"奥様"と呼ばせている。今の地主である老父は、そんな老母の元御者であり、下働きの男に土地を要求されて拒絶しながら、年の離れたメイドと関係を持ち、レジスタンスに裏の森を貸したり食料を援助するなどして協力しいてる。そして、彼ら二人はウンテの実の両親でもないため、家の中の空気は重苦しい。構成員全員が死の匂いを顔に貼り付けて、別々の方向を向いているのだが、それでも互いのことを思い合っているという不思議な空間になっている。ソ連の支配に対する希望の星にも見えるレジスタンスも、メンバーどうしの疑心暗鬼や裏切り行為によって精神をすり減らし、ソ連を打ち破るという大きな夢を掲げながら、やがてそれが確実に破れるだろうことを心のどこかで悟っており、野営地には絶望と死の匂いが立ち込めている。彼らを追い詰めるソ連側もまた、農民から金を搾り取るノルマに追われてギスギスしている。誰もが別々の方向を向きながらそれぞれの場所で緩くまとまってる情景や、彼らがゆっくり自身の信条を語る姿、ある一定以上の熱を感じないような冷たい画面なんかは、実にバルタスっぽい。バルタスっぽいというより100%バルタス。既視感が凄い。

後半になると、偽りの平和を保っていた世界が一気に崩壊へと進んでいく。そこまでの不穏だが穏やかな日常を踏みにじる"ソ連"という狂気に、人々は為す術もなく飲み込まれていくのだ。しかし、あまりにも冷めすぎた視線が切実な物語とマッチしているとも思えず、舞台を変えてセルフパロディを撮り続ける彼が、その系譜の作品を一つ加えたに過ぎないという印象しか受けない。『The House』を超えるバルタスが見てみたい。

レジスタンスにいる少女が、どこかカテリーナ・ゴルベワに雰囲気が似ていて、前作『Frost』のヴァネッサ・パラディしかり、その前の『Peace to Us in Our Dreams』のIna Marija Bartaitė(彼女はバルタスとゴルベワの娘)しかり、ずっと引きずってる感じが分かって泣けてくる。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa