ずどこんちょ

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのずどこんちょのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

このシリーズはアニメだけどアニメではありません。色彩、アクロバティックな演出、カッコいい音楽。
続編である今回はスパイダー・グウェンの物語から始まります。
怪物になってしまった親友をそうとは知らずに失い、悲しみに暮れ、仲間や家族にも理解されずに孤独でいたグウェン。そんなグウェンが別次元のスパイダーマン同士で結成された組織スパイダー・ソサエティに出会い、彼女は家族の元を離れて組織に加入します。スパイダーマンらしい悲劇がテンポ良く描かれるのです。
アメコミ原作そのものの世界がアニメになって展開の起伏が付いた感じ。本作はアニメを超えたアニメなのかもしれません。

前作のテーマが「運命を受け入れろ」だったのに対し、今回のテーマは「運命なんてブッつぶせ」です。
まさに本作で主人公マイルスが直面する大きな課題に対するテーマとなっています。

マイルスはいつものように高校生活と街を守るスパイダーマンとしての活動を両立させている忙しい日々を送っています。
そのせいで家族に秘密を抱えてしまい、家族はマイルスの不審な行動を心配します。一方、マイルスも秘密を打ち明けられないもどかしさを抱えて上手く心を開けません。
そんな中、スポットという敵が現れるのです。

このスポットが曲者で。
空間に穴を作って移動できる能力を持っているのですが、登場シーンがとにかく雑魚。あぁ、これは簡単にスパイダーマンにやられるなという悪に染まりきれていない敵なのです。
ところが、このスポットが雑魚だと侮っていたのが大きなミスでした。彼は自身のエネルギーを増幅させ、別次元のスパイダーマンたちを巻き込むほどの強大な力を手に入れてしまうのです。

スパイダーマンの物語には繋がりがあります。
肉親の死、協力してくれていた警部の死……。こういった悲しみをすべての物語が共通して抱いています。皆に愛されるヒーローでありながら、その本人たちは非常に孤独で悲劇を抱えている。だからこそ強いヒーローであり続けることができるというのがスパイダーマンのベースにあります。
本シリーズでは様々な媒体で描かれてきた多種多様なスパイダーマンが登場します。アンドリュー・ガーフィールドが演じた実写版スパイダーマンの映像も流れるほど。
しかしどのスパイダーマンも同じように哀しみを抱えているのです。孤独や悲しみが彼らのエネルギーとなり、それでも敵と立ち向かい続けています。

そんな中、再会したグウェンを追ってマイルスがある次元に入った時、そのようなスパイダーマンの物語の前提条件を知らずに、その次元の警部を助けてしまったのです。
人助けはヒーローの仕事。しかしそれによって運命のバランスが崩れ、世界の崩壊をもたらすというのは皮肉な話です。
それと同時にマイルスは気付きます。自分の次元にいるマイルスの父親はもうすぐ警部に昇進します。
つまりスパイダーマンの物語上、敵の襲撃によって父を失うことになってしまうのです。

このままではお互いに親子の理解を得られないまま父を失ってしまうことになります。マイルスはそんな運命に抗うため、スパイダー・ソサエティの追手を逃れて自身の次元へと帰還しようとするのです。
まさに「運命をブッつぶす」ということ。


「スパイダーマンの仕事は犠牲を払うこと。それが運命だ。」

スパイダー・ソサエティを結成するミゲル・オハラは自身の経験を基に、そう言い放ちます。そして、物語の崩壊を阻止しようとマイルスを拘束しようとするのです。
ヒーローであるはずの強力なスパイダーマンが本作ではヴィラン的立ち位置でマイルスの前に立ちはだかります。
そのビジュアルも能力も禍々しさを醸し出しています。

スパイダー・ソサエティから脱走するシーンでは無数のスパイダーマンが登場します。
はっきり言って大半のキャラクターは知りません。見たこともない。しかし、ここまで多様な特徴を得たスパイダーマンが揃っていると圧巻です。

とても逃げ切れなさそうな状況なのですが、マイルスは諦めることなく逃げ続けます。それはまるで運命という強大な力そのものを表すかのようです。
彼らはしつこく、自分たちの既定路線上の物語に引き摺り込もうとしてくる。マイルスにとってそれは望ましいものではありません。
高校卒業後の進路に悩んでいたマイルス。彼は自身がやりたい物理学研究の道に進みたいと感じていました。始めのうちは母親も遠くの大学へ進学することに納得できていなかったのですが、思いを言葉にして伝えることで自分の進路を応援してもらえます。
それはグウェンもまた同じでした。言葉にして親の理解を得たグウェン。

マイルスは人生においても今まさに自分の運命を切り拓こうとしているのです。誰からも指示されたり、運命などというレールに乗って走りたくはなかったのです。
ましてや父親を見殺しにしなければならないなどという運命は決して受け入れられません。
ミゲル・オハラはマイルスのことを何も知らないガキ扱いをします。確かに知らなければその運命を辿っていたことでしょう。しかし、知ってしまった以上、その先がどうなろうとも抗い続けるしかなかったのです。その先が世界の崩壊であろうと、大切な人を守ることが自身の切り開く道だったのです。

しかし、マイルスが帰還するマシーンを使って戻った次元は元々マイルスがいた世界ではありませんでした。
彼は元々、別次元から来たクモに噛まれていたため、機械が遺伝子情報を読み取ったのは元々クモがいた次元だったのです。考えれば当然に納得できる仕組み。
そして同時に、その次元にはスパイダーマンを生み出すクモが不在になっているため、スパイダーマンがいません。治安が荒れ、犯罪者たちの覇権争いが勃発している街。
そこでマイルスが出会うのは、悪に染まった別次元の自分だったのです。

面白い展開になりました。
辿り着いた次元ではまた違った環境により、違った運命を辿った自分がいます。
マイルスの運命に抗う物語の続きが気になります。