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ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償のGreenTのレビュー・感想・評価

3.0
BLM問題の根深さを見せつけられる映画です。

舞台は1960年代のシカゴ。カリスマ指導者フレッド・ハンプトン(ダニエル・カルーヤ)のおかげでブラック・パンサー党イリノイ支部は、人種を超えて拡大しており、FBI からマークされる。

FBI 捜査官のロイ・ミッチェル(ジェシー・プレモンス)は、ケチな窃盗で逮捕されたビル・オニール(ラキース・スタンフィールド)をタレコミ屋としてブラック・パンサー党に送り込む。

この映画で観ると、ブラック・パンサー党は、国会議事堂を襲撃したトランプ支持者たちと同じに見えます。政府に不満を持ち、武器を持ち、警官を「豚」と呼ぶ。

しかし、FBI 長官(マーティン・シーン)と捜査官たちのミーティングのシーンを見ると、ブラック・パンサー党に対する取締りは、明らかに白人の特権を守るための人種差別的な弾圧と思われる。しかも、権力を握っているのは白人なので、FBIと警察が権力を行使すればいくらでも言いがかりをつけて逮捕や嫌がらせができる。

・・・という当時の黒人に対する不当な差別と、それと戦おうとする偉大な黒人指導者フレッド・ハンプトンを、FBI のタレコミ屋をせざるを得なかったビル・オニールの目を通して描く、という感じにしたかったのでしょうが、黒人の映画は面白くない、と私が個人的に思う問題がある映画でした。

制作に結構金かかってて、60sのセットや衣装はすごい良くできていたんですよね。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ほどではないけど、車なんかすごいクラッシックカーだし、街のシーンとかもちゃんと作ったか、ロケ地を探しまくったか、とにかく良くできている。

俳優さんたちもみんな熱演で、ダニエル・カルーヤは黒人のカリスマ指導者を熱演しているし、ラキース・スタンフィールドはあの子犬のような目が、逃げ場のないタレコミ屋にピッタリでした。

あと特筆すべきなのが、ヒロインが正真正銘の「アフリカン・アメリカン」って感じだったことです。黒人の美しい女性って、白人とのハーフだったり、「ホワイトウォッシュ」が半分くらい入っているじゃないですか。本当にその辺歩いている黒人の女の人ってこんな感じじゃないよ、っていつも思うんですよね。カマラ・ハリス副大統領だって、黒人の女性って言われているけどインド系でしょ。本当にアフリカから奴隷として連れてこられた人たちが、今や副大統領なんですよ、って感じではないんですよね。

「本当の黒人目線の映画を作りたい」という黒人の製作者たちの熱意は感じるんですけど、話がどうしても「黒人の苦境を延々と見せられる」って感じになっちゃって、「こんなにひどかったんだ、知らなかった」という衝撃はあるのですが、そこに尺を取りすぎて、キャラクター造形の面白さとかカタルシスが感じられず、だから私は黒人の映画って観るの躊躇してしまうきらいがあるんですよね。

私としてはラキース・スタンフィールドが演じるタレコミ屋が、指導者ハンプトンに共感し共に黒人のために戦いたいのに裏切らなくてはならないって言う葛藤、タレコミ屋とバレたら仲間にリンチされるという恐怖、そういうもので精神的におかしくなっていくっていうところに焦点を当てた方が映画的には面白かったと思う。

あと、ジェシー・プレモンスのキャラは、良い白人も入れて置かないと批判される、というおざなりな理由で作られている感じがする。白人のFBI 捜査官なんだけど、ブラック・パンサー党はKKKと同じ危険な集団だから取り締まりたい、と純粋な正義感で仕事をしているが、FBI 長官や他の捜査官たちは明らかに黒人差別をしていて、自分にも黒人を見下すようにプレッシャーをかけてくる。そういう狭間で葛藤する役なのですが、このキャラ特にそんな複雑なキャラ造形をしてフィーチャーする必要なかったと思うのだが。

それと、暴力描写が生ぬるい!明らかになにかに遠慮している感じがする。フレッドが不当に逮捕され、刑務所で黒人受刑者が残酷な扱いを受けていることが示唆されるんだけど、イメージのみ。白人警察官が街で黒人に嫌がらせするところも、黒人の身になって「ひどい!」と思えるような描写じゃない。ブラック・パンサー党の人たちが白人を殺すときも、追いかけられたから殺すとかだし、他のタレコミ屋をリンチして殺したシーンも出てこない。だから実際にどんな活動をしていたのか、口ばっかりでそんな危険な組織でもなさそうに見えてしまう。

まだまだ黒人中心の映画を世に出すには、いろんな気を使わなかればならないってことでしょうか。

最後も、本人たちの映像やキャプションで「この後こうなりました」って説明が出てくるの、基本的に嫌いなんだけど、ここで説明することを映画の中で表現して欲しいなあって思った。本物のビル・オニールがインタビューで「当時裏切り者だった自分をどう息子さんに説明しますか?」と訊かれて答えているその回答を映画内で描いていたら面白かったと思うんだけどなあ。
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