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いとみちのslowのレビュー・感想・評価

いとみち(2020年製作の映画)
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やってやれないことはない。わたしはわたしの音を信じる。

これでもかと配役がはまっている。これは役者がみな不足なく演じる力を持っていたという、そういう素晴らしさでもあるけれど、監督のイメージに無駄がないのだろうなと思う。その中で駒井蓮は、いわゆる想像を超える演技を見せたのではないだろうか。駒井蓮という役者の持つ潜在能力。最初に彼女を映画で観たのは『名前』だった。それは特別期待して観たわけではなかったけれど(失礼)、演技派とはまた別の何か、彼女が画面に現れると妙に心惹かれるものがあった。本作では津軽弁を違和感無く操るし、おかげで半分くらい理解できなかったけれど、それが全く嫌ではなくて、ついつい笑ってしまったり、泣いてしまったり。彼女自身青森出身らしいので、多少の利点はあったのかもしれない。三味線も猛特訓したとのことで、その成果は、ぜひ、その目と耳で確かめて欲しい。本作でさらに彼女のファンになった。豊川悦司が出演していると知らずに観る豊川悦司は何だか凄く豊川悦司で、思えば彼の代表作などよく知らないものだから、トヨエツという都市伝説くらいに思っていたのだけれど、やっぱりしっかり出て来てちゃんと観ると存在感が凄い(わたしは何を言っているのだろう)。要するに今更ながらトヨエツを堪能し流石だと感心したということ。中島歩も久しぶりにしっかりと観られて嬉しい。彼のトーンがコメディを押し上げている。ベースみたいな声。ベースは大事。リズムを生む。逆に高音の部分とでも言いますか、西川洋子(ハツヱ)の軽妙かつ味わい深いキャラクターと津軽弁が、この舞台を鳴らし続ける。それは彼女の奏でる三味線の調子のようでもあり、馴染みの良さと尊さに溢れていた。メイドカフェの2人も魅力的だったし、本当全員が素晴らしかった。どうやら映画自体が完成しないかもしれないという危機的な状況の時もあったらしく、こうやって無事に公開されたことにただただ感謝。ご当地映画らしく、歴史や文化について触れているのはもちろん、何気ない景色の胸がすくような美しさ、そして、その土地に生きる人々の味、転んでもただでは起きない強さに、純粋に感動しました。横浜聡子監督作品初鑑賞にして、最高の作品に出会えたという幸福。ありがとうございました。
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