ゆず

日本沈没2020 劇場編集版 シズマヌキボウのゆずのレビュー・感想・評価

3.2
「日本なんて沈んで正解」というセリフを、ネトウヨが「反日」認定したために世間の評価は低い。

まず作画は全体的にまとまりのない感じで、デフォルメされていないキャラクターデザインがカットごとに違う顔を見せてくる。キャラ表を参考にしてないのでは?…と思うほど。
構図やカメラワークは至って普通で、湯浅政明監督の作風もあまり活きていないように思った。湯浅監督はずっとファンタジー路線で来ていたと思うんだけど、本作はリアル路線だからあまり無茶な絵にはできなかったのだろうか。
部分的には力の入っている絵も勿論ある。例えばカイトが暴風に吹かれるカットなどは顔面がヌルヌル動きすぎていて、イケメンが酷いことになっている。カイトも作画も頑張ってるのに鑑賞者は笑いを堪えないといけない状態。

ストーリーは、野暮なツッコミをしたくてウズウズしてしまう。ありえないような死に方をする人、思いもよらないタイミングで死ぬ人、謎の超能力を持つ人、そもそも列島沈没中にスマホの電波飛んでるの?…などなど。
あまりに突拍子がなさすぎて、人死んでるのにギャグに見えることもあるし、それでもやっぱり人死にには違いないので心抉られることもある。
牛尾憲輔の奏でるなんか良い感じの劇伴に助けられ、グッとくるシーンもたくさんあった。しかしそれがカットアウトされて悲惨な結末を迎えることもあった。半分以上は音楽の牛尾憲輔目当てで観に行ったが、じっくり味わいたいならやはりサントラが一番だ。そしてやはりサントラは最高だった。

本作は1973年と2006年の映画版のどちらとも異なるアプローチで描かれており、三者三様の描き方がされているのは面白いコンテンツだと思う。
これまでの映画版はマクロな視点から日本を襲う大災害を描いたのに対し、本作では一つの家族に焦点を当て、日本列島の沈下から逃れようともがく普通の人々を描いている。終末世界を舞台にしたロードムービーと捉えれば、カルト教団が登場するのも不思議なことではない。
主人公たちは大災害を予知した科学者でもなければ、脱出計画を指揮する政府関係者でもない。あくまで一般市民の視点から語られる、アテのない避難の旅路。突拍子もなく人が死んでいくのも、おそらく科学者や政治家のマクロな視点からでは見落とされる部分だ。沈下に伴う地震だけが、人々を殺すのではない。
東日本大震災から9年半が経ち、死者・行方不明者・震災関連死の合計は2万2千人を超えたという。私たちはいつもその数字の大きさで事の大きさを測るが、実際はひとりひとりのかけがえのない人生が2万2千人分あるということを忘れてはならない。本作はそういった歴史の中で風化し、数字として埋没していくひとりひとりの命を、掬い上げて物語にしているんだと思う。
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