真田ピロシキ

ベイビー・ブローカーの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
3.3
是枝裕和監督による韓国映画。出演はソン・ガンホにカン・ドンウォン、ペ・ドゥナにイ・ジュヨンと錚々たる顔触れ。題材も赤ちゃんポストに預けられた子供から始まる犯罪ストーリーで社会から見放された人々を描く是枝監督らしい。なので期待して見たがどうも低調。犯罪ドラマなのは分かって見たが、サスペンスに傾きすぎてるように感じて思ってたのと違うのだ。ペ・ドゥナとイ・ジュヨンの刑事コンビの描写を絶えず挟むので刑事ドラマの様相がする。社会派サスペンスとも言えるが、そういうのを是枝監督に求めてもいないので。自分が見たかったのは追われる方の事情で、児童養護施設の予算が年々削減されていることが語られたり、孤児を売春させる"お母さん"の存在で公的補助が貧弱な現状を窺わせ、40人に1人しか実際には迎えに来ない母親や3%しか成功しないという孤児(非正規雇用のドンス(カン・ドンウォン)ですらマシな方っぽい?)の人生、だけど兵役は免除されるという意外な温情等を教えられもするけれど退屈を覚える時間が長かった。

半分くらい過ぎて車に養護施設の子供ヘジンが隠れていて、そこから擬似家族のロードムービーになって行きやっと是枝監督らしい趣になり盛り返した。洗車場のシーンは良い。人前では夫婦を装うドンスとソヨン(イ・ジウン)の恋愛ではない微妙な距離感等の嘘の中にある本当は『万引き家族』の家族とも通じる。そうは言っても是枝作品なので結末は苦いのだろうと思っていたけれど、これが意外と甘味。捨てられるしかなかった赤子ウソンを追っていたスジン刑事(ペ・ドゥナ)の夫婦と違法に養子にしようとしたために権利は得られなかった夫婦が共に見守り支え、ソヨンも含めて罪を償った人達を混じえて未来を紡いでいく。人の暖かさを信じたい希望が込められていた。でもこれ、あくまで共助なんだよね。公的補助には全く触れられていないのは先にもその貧弱さを述べたようにもはや何の期待も抱かないという諦念があるのかと思った。韓国でどうなのかは知らないが、日本人の是枝監督の思いとしてはそう感じてもやむない。

それと劇中で「捨てるくらいなら産まなければよかったのに」というスジンの言葉に対してソヨンは「産まれる前に殺した方が罪は軽いのか」と言って中絶を拒絶してて、それ自体は個人の価値観なので他人がどうこう言えることではなくて擬似家族全てに対する「生まれてきてくれてありがとう」は良い台詞であるけれど、昨日アメリカで中絶の権利が大幅に後退したばかりなのでタイミングが悪すぎる。選択肢を奪うことこそ罪である。そういう事情もあって残念ながら是枝作品の中ではそこまで響かない映画になった。

『マグノリア』が好きな人なら一箇所おおっとなる演出あり。是枝監督お気に入りなのかな。