TaichiShiraishi

映画 太陽の子のTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます


声高に戦争反対を歌うわけでもなく、お涙頂戴に走る明けでもなく、戦争の狂気の中で、科学者として国家の威信など関係なく原爆を作ることに取りつかれた男の物語を静かに描いていて、上質な語り口にほれぼれしてしまう良作だった。見終わった後の何とも言えない後味は『風立ちぬ』を思い出す。


自分たちの研究に意味があるのか悩んで口論する研究員たち。そんな彼らの横で主人公・修はひたむきに実験を繰り返して前に進もうとするが、彼は決して天才ではなく何も成し遂げられないのが切なく、その他の戦争に青春を費やした若者たちと同じ虚しさを違う形で味わっているのが分かる。終盤に歴史を知っている観客から見ればまったく意味のない行動を主人公がとっているさまは、滑稽なはずなのにひたむきな美しさがあって、彼の若い情熱が無駄になってしまう、歴史に埋もれてしまう戦争の残酷さを感じてしまった。とはいえ、時代関係なく数多のこのような報われない努力をした人々がいたのだろうが。


広島に原爆が落とされて、その跡地に行く場面も、自分はこんなものを作ろうとしていたのかという絶望と同時に、「自分の研究の先には正解があったはず」と同時に少し羨望も混ざった表情をしていたのが印象的で、柳楽優弥という俳優の演技力に舌を巻いた。


メイン3人は時代に埋もれたただの若者であり、何か世界を変えることに分かりやすく貢献しているわけではないが、それでも彼らは確かにその瞬間を懸命に生きたということを適度な距離間でやさしく描いていて、その視線に涙が出た。


全体的な演出のトーンも静謐で、空襲の炎や、死体を燃やす炎すら美しく描くアーティスティックな画面も実に映画的で、新たな邦画の戦争映画の名作が生まれたといっても過言ではないと思う。『スパイの妻』に引き続き、NHK製作ドラマの映画化は侮れない。
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