NAO141

映画 太陽の子のNAO141のレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
3.4
終戦75周年を迎えた2020年の終戦記念日にNHK総合で放送された特集ドラマ『太陽の子』の映画版。原爆開発を背景に、時代に翻弄される若者たちの苦悩と青春をテレビドラマとは異なる視点で描いている。2020年に30歳の若さで亡くなった三浦春馬が出演した最後の公開作品でもある。

唯一の被爆国である日本だが、実は日本も戦時中、原爆を開発していたというのは事実である。本作は基本的にはフィクションであるが、実話がベースになっている(実在した〈F研究〉というプロジェクトをベースにしたストーリーになっている)。〈F研究〉とは、旧海軍が京都帝大の研究室に委託していた「fission (核分裂)」についての研究のこと。物資の不足等によって終戦までに完成には至らず、終戦後にはGHQによって原爆に関連する物理学の実験機材は破壊されたり持ち去られたりしてしまった。しかし、当時の研究ノートは今も残っており、その研究レベルはアメリカにも劣らない程に高く、物資さえあれば日本が原爆を完成させていた可能性も十分にあったという。日本は結果的には戦争にも負け、原爆開発競争にも負けた。後世の我々はこれをどう受け止めるべきであろうか。唯一の被爆国になった日本だが、もし開発が世界をリードしていた場合、我々がどこかの国を被爆国にしていたかもしれないわけで、とても複雑な気持ちになる。

本作の主人公である修たちは〈原爆を開発することで核をコントロールして戦争をなくせる〉と思っていたが、実際に戦争で使用されるとどうなるのか、彼らは身を持ってその答えを体験することになる。原爆の父と言われたロバート・オッペンハイマーでさえ、後年になって古代インドの聖典の一節「我は死神なり、世界の破壊者なり」を自分自身に重ねて、原爆開発を主導したことを後悔していると吐露したのだとか。研究、開発の先に科学者たちは何を感じたのであろうか。

作中には「いっぱい未来の話をしよう」という台詞が出てくる。若くして世を去った三浦春馬にはもっともっと未来の話をしてほしかった。もっともっと未来を生きてほしかった。残念でならない。
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