April01

シカゴ7裁判のApril01のレビュー・感想・評価

シカゴ7裁判(2020年製作の映画)
3.8
裁判を通じて事件当日に起きたことを小出しに見せていくストーリー構成が面白い。法廷劇だけでドラマを成立させている。

1968年8月シカゴ開催の民主党全国大会、会場近くの公園に集結した市民や活動家による抗議デモ隊が警官隊と衝突し負傷者が出る。暴動の首謀者とみなされ起訴された8人に対する裁判の様子を描いた作品。
8人が、タイトル通り7人になった経緯も、この物語の見どころとなっている。
民主社会学生同盟:トム・ヘイデンとレニー・デイヴィス
青年国際党:アビー・ホフマンとジェリー・ルービン
ベトナム戦争終結運動の活動家:デイヴィッド・デリンジャー
デモ参加者:化学者であり反戦活動家ジョン・フロイネス
デモ参加者:博士課程の学生であり地域の活動家リー・ウィンナー
ブラックパンサー党議長:ボビー・シール

興味深いのは、上記の団体それぞれに掲げる思想が異なり、起訴された個人間にもテンションに微妙な違いがあることがセリフの中にさり気なく挿入され、デリケートな関係性が緻密に描かれている点。

前半では、命をかけて戦う黒人運動家として、理念的な主張とパフォーマンスで自己陶酔しているにすぎない甘ったれの白人運動家たちとは違うというボビー・シールの使命感と自負が伝わってくるし、フレッド・ハンプトンの悲劇と、法廷での屈辱的な差別の様子に、おそらく観る者全てが、自分がどの立場であろうと、目を覆いたくなるような酷い場面に胸が苦しくなる。そしてその心理を見事にジョセフ・ゴードン=レヴィット演じる検察側の弁護士が良心を元に行動し、やり切れなさにハケ口を与えてくれる仕組みに気持ちが救われる。

さらに見どころの終盤、文脈を無視して一部の言葉を切り取り鬼の首を取ったように大騒ぎってよくある話なんだけど、
エディ・レッドメイン演じるトムが演説で口走ってしまった言葉、「血が流れるなら街中で血を流せ!(If blood is gonna flow, let it flow all over the city!)」が証拠として使われ詰問される場面。
サシャ・バロン・コーエン演じる、終始お道化た調子のアビーが「所有代名詞はちゃんと使えよ」とシニカルな突っ込みを入れる、「誰の」血なのかって。アビーの行動の裏にある冷静さとスマートさが垣間見え、これが一つの転換点となり、二人の間のわだかまりが氷解していく空気と、同時に弁護団を含めた被告側全員の気持ちが一つに団結していく流れが自然につながってラストへ向けて高揚感を演出するフロー作りが素晴らしい。

描かれているのは善と悪の二項対立ではない。大きな目的のために立場も手段も違う者たちが、ある時ある場所に集まった。裁かれる者たちに一体感がなく茫洋としている前半が効いているからこそ、一気に団結に向かって締めたかのようなクライマックスがドラマチック!そのために多少脚色してでも、という気概を感じてならない。
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