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きまじめ楽隊のぼんやり戦争の8637のレビュー・感想・評価

4.1
この映画に感じた既視感について後から考え直してみて、「俯瞰的なロールプレイングゲーム」なのだと分かった。或いは、夢の中。
リアリティ溢れるのに新鮮。側から観たら可笑しいけど、あの町の中の世界ではあの単調さが当たり前なのだし、その単調さを貫き続ける事で、カメラが固定じゃなくなっただけでも違和感を感じてしまう。
だから見方も色々あって、「現実だとこんな口調だな」と言い換えて観ると何度も苦笑してしまった。

そもそもこの町自体が現実ではあり得ない設定なので面白い。ただ"戦争"を繰り返していくだけの毎日。町民の目覚ましの為だけに存在する楽隊。不条理で役立たずな町のひとびと。「言葉」によって増減されていく白米。
だけど三戸のように、現代社会にもあり得るような"謎めいた当たり前を解き明かそうとする"為に努力をする者もいる。このリアリスティックがなにか現代への教訓となりそう。

「楽隊」には"きまじめ"が似合うし「戦争」には"ぼんやり"が似合ってる。
この映画が単調ではない、という事は流石に認められないが、予告編の印象から「寝ちゃいそうだな...」と思っていた分、"単調でもおもしろければ寝ない"事が立証されたのも個人的に喜ばしい。

一般的にはどうしても実験作に分類されそうだし、自分もここまで単調単調言ってきたが、だからこそ露木と"向こう岸"との「美しく青きドナウ」の演奏シーンには温かみがあり、そこで彼らの行動の習慣に反した"感情"を垣間見る事ができて感動した。

この語感は、日本語をよく知る日本人にしか味わえないのかもしれない。日本人で良かった。傑作。


追記:国語の授業で「ピラミッドは失業者を救う為の虚偽の国家的公共事業なのではないか」という論説を読み、この町と"向こう岸"の理由もなき戦争も昔々に国家の企んだ公共事業なのではないかとこの映画を想起した。それ程の恐ろしさを感じた、という訳かな。
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