好き勝手なてそ

オールドの好き勝手なてそのレビュー・感想・評価

オールド(2021年製作の映画)
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娘さんの監督作品の公開前に、ナイト・シャマラン監督作品を見漁る。
■あらすじ
リゾート地に宿泊に来たキャパ一家。特別なプライベートビーチがあると招待され、従業員の車でビーチへ。
ビーチで過ごしていると、海辺で死体を発見し一同は騒然。しかし、電波もなければ、車のあったところへ戻ろうとすると突如気絶してしまい、一同は戻れないことを認識し始める。
やがて、子どもたちの身体は急激に成長をしはじめーーという話。

■ざっくり感想
ある日突然、急速に老いていく環境に置かれたら?もし1日で一生が終わってしまうなら?
この瞬間に人生をどう見つめどう過ごすか。
「明日地球が滅亡するとしたら」という問いとも若干近いけど、時間の大切さを認識する。

特殊な環境下におかれてやっと人生を見つめることになるというのは、なんとも皮肉めいていてグロテスクだなと思った。
しかも別に彼らは犯罪者でもないし、決して自暴自棄な暮らしをしているわけでもないのに…。
ストーリーについての詳細な感想は、他はネタバレなしだとかなり厳しいので下の方に書きます。

役者たちの演技は総じて良かった。
ガエル・ガルシア・ベルナルとアレックス・ウルフが好きなので、ふたりとも出ていて眼福でした!アレックス演技いいなぁ〜。
あと、ナイト・シャマラン作品はだいたい監督がカメオ出演してるイメージだけど、今回のは監督が普通に出ててちょっと笑った。
まあ北野武映画はたけしさん出るし変なことじゃないけど。



ーー以下ネタバレ含みますーー


■老いていく大人たちの演技が◎
キャパ夫婦を演じるガエル・ガルシア・ベルナルとヴィッキー・クリープス。
特殊メイクも自然で良かったけど、終盤に向かうにつれ所作や話し方もだんだん鈍くなってきて、絶妙にリアル。
時間は1日も経っていないはずなのに、身体の老化に追いついていない感じが身体の反応や滑舌にも現れていてとてもよかった。

アビー・リー・カーショウが演じるクリスタルはちょっとホラー要員だった感じあるけど、序盤で猫背はモテないと言っていたのに最後猫背になってたのとかは本当グロかった。
クリスタルの老い方は他の人と比べてオバケ過ぎるので、何か他にメッセージがあるような気がする。

医師であるチャールズがわりと早い段階から壊れ始めるのはちょっと面白く見ちゃったのだけど、身近に統合失調症とか認知症の人がいる方が見たらあれはかなり怖いだろうな。チャールズは元から認知症の症状はあったのだろうか?
あの人にあの段階でナイフ握らせたらダメでしょ^^;
あとナイフのサビで倒せるなら、腫瘍摘出シーンで傷口に素手を突っ込むのだってなかなかヤバイと思うけど、気にしないことにした。
チャールズが何度も思い出そうとしたニコルソンとブランドが出る映画は『ミズーリ・ブレイク』だそうです(みんな調べそう)

■急激に成長していく子どもたちの演技が◎
子役は年齢ごとに配役が変わるけど、特に青年期のトレント、マドックス、カーラ役の3人は良かったなぁ〜。
激推しのトレント役アレックス・ウルフ。大人の見ていない間にカーラと良い雰囲気に。
時間的には今日出会ったばかりの友達なのに、思春期の心と体の変化に抗えずセックスしてしまい、一発でデキてしまう。
でも、彼はそのあたりの教養をすっ飛ばしているので、カーラが大きいお腹を抱えてもトレントは子どもができたとはわからずニッコニコ。
達観しはじめるマドックスに対して、トレントは精神年齢が身体に追いついていないような描写わけと演技がとても良かった。

■誰でも「過去」を見て生きている
この映画では、「過去」「未来」というのも重要なキーワードだと思っていて、キャパ夫妻の口喧嘩でもしばしば出てきた。

また、トレントとイドリブが宿泊者に片っ端から聞いていた名前と職業。
職業の聴取は、ラストでトレントの記憶が功を奏するが、それだけのための伏線だとするとちょっと安直だと思う。これも他に意味があったんじゃないかな、と。
皆そこそこしっかりとした職業で、躊躇せず自分のことを話していた印象があった。
職業とは、「過去」の積み重ねで築けたものであり、過去に誇りを持っているからこそ自信をもって職業の話をできると考えると、人は誰しも過去を見て生きているものだと思った。

過去にすがるのは大人だけかと思ったけど、最初トレントとイドリブが出会い頭にお互いのパズルピースや貝殻集めを自慢し合う謎シーンがあり、あれも似たようなことかなと。

未知の海岸では、医者がナイフで執刀しても傷はすぐ塞がるし、急速に白骨化した死体を見ても博物館勤務の知識は役立たない。
水泳が得意だと豪語して泳いでも息絶えてしまう。
過去の経験が一切活かされないビーチでは、過去への執着は無用。
やがてキャパ夫婦は、お互いの過去を忘れ今そこにいる相手を赦すようになる。

■「未来」への希望を捨てなかった姉弟
一方で、赤ん坊が生まれると成長速度に適応できずすぐに死んでしまう。このビーチでは「未来」も失われるとともに、生きることの価値も失われる。
トレントとマドックスは、最後の時を過ごすために砂の城を作ろうとする。
「砂の城」とは、時間とともに波風で崩れて消えてしまう儚いもの。ビーチにおける姉弟の人生と同じくらい脆いものなのに、貴重な時間をかけてまで執着する必要は一切ないわけだけで。
でも、彼らがこれを作ろうとしたということは、彼ら自身が自分の人生の「過去」も「未来」も捨てたくないという潜在意識のあらわれかなと思った。

■サンゴは生きることの象徴
砂の城からイドリブの手紙を思い出したトレントは、サンゴが脱出のカギなのではないかと勘づく。
でもなぜサンゴなんだろう?
サンゴは、海の豊かな生態系のベースであり、地球温暖化の話でよく登場するが、
生命力とか生きることそのもの、生きることでうまれる「未来」の象徴として扱ったのかなと思った。
環境問題についても暗喩してたりするのだろうか??

■製薬会社の治験は正しいのか
トレントとマドックスは、警察官に実情を伝えるとさっそく社員を逮捕(!?早すぎ)。
逮捕されたということは違法な何かをしていたと判断されたわけだけど、
この治験によってたくさんの人の命を救える薬が短期間で作れる(はず)ので、トロッコ問題みたいだけど、そこだけ見てしまうと製薬会社の働きを止めてしまってもいいのか難しいと思った。
治験の意志がない人たちを誘い込んで、説明なしに人体実験するのがかなり悪質なので、
治験として死刑確定の凶悪犯罪者で島流し的にやるとか、なんとかできなかったのかな?


深く考察しがいもあるし、ナイト・シャマラン監督作品の中では結構好きな方だった。