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真・鮫島事件のひこくろのレビュー・感想・評価

真・鮫島事件(2020年製作の映画)
4.2
定番の怪談ホラーのフォーマットに「鮫島事件」という題材を乗せるのではなく、まったく別の要素を持ち込んで新しいホラーを作り上げようとしているのが、とても新鮮で面白かった。
今回、組み込まれているのは、密室もの、あるいはソリッドシチュエーションホラー、もしくは脱出ゲームの要素と言っていい。
自分の家に閉じ込められてしまった五人が、恐怖に駆られながら、どうにかして脱出する方法を探っていく。
ヒントは「鮫島事件」という言葉しかない。

何が起こっているのかもわからない。いつ襲われるかもしれない。
その舞台が、自分の一番くつろげるはずの自宅というのが、怖さを引き立てる。
最初のほうでエレベーターの「閉」のボタンを押しても扉が閉まらないシーンがあるが、あれと同じで、普段なんでもないように見える物や場所に違和感を感じるというのはなかなかに怖い。
また、相手の状況がオンラインの画面を通してしか見えないというのも上手いと思った。
視点が固定される怖さだけでなく、非日常感がこれによって格段に増している。

ところどころに入る、現実感も、より非日常感を高めるのに役立っている。
大家さんが入ってきて「騒ぐな」と出て行ってしまうシーンや、お兄ちゃんが帰ってくるシーンとかが、逆に五人の置かれた状況の異様さをこれでもかと際立たせていた。

恐怖が人間の嫌な部分をむき出しにするところなど、ほかにもいいとか上手いとか思うところがいろいろあったが、やっぱりこの映画の肝は、脱出ゲームの要素をうまくホラーのなかに落とし込んだことに尽きると思う。
いきなり、非日常の密室の中に閉じ込められてしまった主人公たち、というのが抜群に効いている。
「きさらぎ駅」でも感じたが、永江二朗監督はこのやり方がとても上手い。
オチでちょっと失敗している感はあるものの、それ以外はまるで文句がない。
純粋なホラーとして怖いというよりも、一本のエンタメ映画として面白いと強く思った。
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