何かを選ぶ時、必然的に何かは切り捨てられる。たとえどれだけ思い入れのあるものだったとしても、名残惜しい道だったとしても、切り捨てた方は決して日の目を見ることはない。まるで映画の編集作業のようだ。間違いもなければ正解もない、不安定で不確定なものの中で、自分の信念と目指すものだけを頼りに取捨選択を繰り返す。夢といえば聞こえはいいが、それは狂気と背中合わせの世界。当たるかどうかは神のみぞ知る、されどそこにしか生を見出せない者たちへ。
とにかく最初から何かとんでもないものが始まったという感覚が全身を駆け巡る。恐ろしいほどの情報量にも関わらず、決して説明不足でも過多でもない小気味良いテンポの編集。手数が多い上にお洒落な場面繋ぎ。本作で語られる映画論は、この映画がちゃんと体現してくれている為、頭でっかちにはならない。それどころか、抽象世界であるアニメだからこそ、宿っている「ホンモノ感」に始終鳥肌が治らない。
声優陣も良く、やはり主演の小原好美は素晴らしかった。ひとりで映画という漠然とした概念を背負いながらも、1人の人として息づいている。加隈亜衣も温和で柔和な声と演技から、一瞬だけ氷のような鋭さと熱さを持った感情がのぞく辺りで驚いた。
笑って泣けて、感動して、現実世界にお土産さえ持たせてくれる。映画とはかくあるべし。映画に、物語に自分を見出し、救われた経験がある人には間違いなくたまらないだろう。
この映画の素晴らしい点は、90分だというところ。全くその短さを感じさせない。
