Rick

夜明けのすべてのRickのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
 どれだけ夜に想いを馳せたことがあるだろうか。その静寂を、その暗闇を、微かに灯る道標を、人はどのくらい知っているだろうか。明るい場所にいることを求めてしまう人の方が多いかもしれない。落ち込んだところにいれば、なんとしてでも這いあがろうとするかもしれない。でも深く底へ潜って気づくことだって必ずある。今にも壊れてしまいそうな自分のことはわからなくても、同じくそこにいる他者のことはよく見える。一緒に時間を共有するだけでもいい。いるだけで、関わるだけで、助けられることはある。自分の意思とは関係なく、日はまた巡る。否応なしに夜明けは来てしまう。その光の中は前いたところとは違うかもしれないが、夜を経験したからこその新しい朝になる。
 PMSとパニック障害。大きく取り上げられるものはその2つだが、この作品の中には沢山の「夜」が映っている。誰もが大なり小なり哀しみや痛みを抱えているが、それは他者から見えるものもあれば、決して見えないものもある。今作は絶対にそれを笑ったり、茶化したりしない。真摯に向き合い、揺らぎ、悩みながら、恐る恐る手を差し伸べる。一朝一夕に解決するものではないからこそ、共に助け合う。
 どの登場人物にも血が通っていて、通行人にまでも人生や生活、哲学までも窺える。だからこそ、「栗田科学」というコミュニティが活きてくる。見ている間ずっと、この場所にいることが終わってほしくないと思っていた。そんな感情を味わうのは本当に久しぶりのことだ。
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