ギズモX

映画大好きポンポさんのギズモXのネタバレレビュー・内容・結末

映画大好きポンポさん(2021年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

「当時の低予算映画は現代と違う。
 良くする努力を誰もしなかった。
 安く上げることが最重要さ」
ジャックニコルソン

「上映時間は90分がベスト」と言っちゃうのは「上映時間90分の映画が最高」と言ってるのと同じだ。
上映時間90分の映画が最高って、お前それアサイラム映画見ても同じこと言えんの?

とある映画の都ニャリウッドで活躍する、超大物プロデューサーの孫のポンポさんと、彼女のもとで働く少年ジーンによる映画制作の日々を描いたアニメ映画。

この映画を初鑑賞した時、僕はとある人物と、その人物が作り上げた映画会社のことを彷彿せずにはいられなかった。
今まで500本以上の映画を製作した上で1セントも損を出さなかった伝説的プロデューサー"B級映画の帝王"ロジャーコーマンと、70年代に低品質かつ面白い搾取映画を大量生産し、数多くの名監督を輩出したニューワールドピクチャーズ。
映画好きの若者がB級映画を取り扱う映画会社で映画作りのノウハウを学び、初監督作品で大成するという点において、本作は間違いなく彼らを意識している。
しかし、ポンポさんはロジャーのポリシーを受け継いでいるのかというと実はそうでも無く、両者を注意深く比較してみるとかなり相違点がある。
勿論、ポンポさんはロジャーと同じでなくてはならないと言う気は全くない。
それはおそらく製作者も同じ考えで、劇中でポンポさんが言った「私はB級映画にこだわっている訳じゃない」のセリフからもこのことが読み取れる。
だけど、本作にはその相違点から"捻じ曲げられた映画史"が生じており、ポンポさんからロジャーを感じ取ってしまった以上、今回はポンポさんとロジャーを比較してレビューしたいと思う。

先程言ったように、ロジャーコーマンは映画好きな若者達をニューワールドピクチャーズに入社させ、低コストな搾取映画を大量生産させることで映画作りのノウハウを学ばせるという、後にコーマンスクールと称されるシステムを社内に作り上げた。
実は、そのコーマンスクール門下生の中には、本作のジーンのように予告編の編集者から大成していった人物が二人存在する。
その二人とは後に『グレムリン』を監督するジョーダンテ、そして70年代ロック映画の金字塔『ロックンロールハイスクール』を監督するアランアーカッシュだ。
(下のリンクはその二人が作り上げた予告編。
ジーンが制作した予告編と比べて見てみよう。
何かが違うことが理解できると思う)

https://youtu.be/F2GEKV1dOgY
https://youtu.be/fUM82uBey90

この二人はニューワールドピクチャーズで最も低予算なコメディ映画『ハリウッドブルバード』で監督デビューした。

『ハリウッドブルバード』は、ニューワールドピクチャーズの日常をそのまま映画化してみた作品。
田舎からハリウッドに上京してきた女優志望の少女が、B級映画しか撮らない映画会社に入社して大物女優に大成していくストーリー。
どうです!あらすじを少し読んだだけでも『ポンポさん』みたいだと思うでしょう。
だがしかし!この『ハリウッドブルバード』には毒がある!
主人公の少女はセクハラだらけの映画会社(つまりニューワールドピクチャーズ)に心底ウンザリしており、自分が出演した(作り上げた)映画に対して「この映画はクソだ!」「ハリウッドなんて大っ嫌い!」とボロクソにコケ下ろすといった非常に低俗で滑稽な映画に仕上がっているのだ。
(下のリンクはその『ハリウッドブルバード』の1シーン。
不快感を感じる人もいると思いますので注意して下さい)

https://youtu.be/56l_KKSIARc

『ハリウッドブルバード』には、彼らが作り上げた映画史がこれでもかと描写されている一方で、彼らの置かれている境遇、会社の劣悪な環境も余す所なく写しており、積もりに積もった日頃の鬱憤を晴らそうとするリアルな体験談が記されている。
この『ポンポさん』にはそういった映画界の闇、毒が全くない。
劇中でジーンは「働く前は一人で映画ばっかり観ていた』と言ってたが、"どんな映画が好きで、どんなシーンに心を動かされたのか"という"自身の映画体験"が描ききれていないので、ポンポさんやジーンの映画作りのポリシーに全く心が動かされないのである。

ジーンが初監督した映画『MEISTER』にも違和感がある。
ベテラン音楽家の中年男性を主役としたドラマ映画の監督に、経験の乏しい若者が就くというのはちょっと身の丈に合ってなくないか?
ニューワールドピクチャーズにも中年男性を主役にした映画は勿論あるが、当時の最大のトレンドは立場の弱い者が権力者に反抗する若者向けの作品だ。

『MEISTER』に一番近いニューワールドピクチャーズ作品がウォーレンオーツ主演の『コックファイター』だろう。
(公開された当時、『MEISTER』はイーストウッド監督の『クライマッチョ』に似ているという話を聞いたが、その『クライマッチョ』には闘鶏という『コックファイター』のオマージュ、共通点がある)

https://youtu.be/pH3R_HDiLPs

だが、その『コックファイター』を撮ったのはコーマンと同世代で監督経験が豊富なモンテヘルマンだった。
『コックファイター』を当時の門下生が撮ったら面白い作品になりえたかというと、それは否であろう。

そして、ここが一番違和感を感じた箇所。
物語の後半、ジーンはシーンが足りないとポンポさんに打ち明け、頭を下げて追加撮影をしたいと懇願する。
その後も追加の予算のやりくりがあったり、編集中に倒れてしまい、安静にしていろと言われているのにも関わらず作業を再開、といった具合に"出来のいい映画作らなきゃ死ぬ"と言わんばかりにどんどん自らブラックな方向にへと進んでいく。
単刀直入に言おう。
そんなこと誰もしていない。

当時の搾取映画の基準は"いかにして早く、安く作り、確実に儲けを出せられるか"だ!
大金をかけてまで出来のいい作品をクソ大真面目に撮るなんて努力全くしていない!
できるか!そんなこと!金が足りんわ!
カットやシーンが足りないなんてことは日常茶飯事。
彼らはそういった時、他の映画から映像を切り抜き、貼っつけることで作品を完成させ、好き放題に制作していった。
プロットが用意されてないなんてこともザラなんだ!搾取映画は!
守銭奴のロジャーが追加撮影なんてものを許す筈がないし、超低予算なB級映画を制作する為に頭を下げる奴なんている訳がない。
ロジャーが製作した映画は賞に最も無縁な存在だった。

こんな逸話がある。
ロンハワードが『バニシングインTURBO』のクライマックスを撮ろうとした時だ。
脚本には「スタジアムの観客席で観戦する満員のエキストラが暴動を起こす」と書いてあるのに、集まったエキストラは予定の10分の1。
ロンはロジャーに「これじゃそんなシーン撮れる訳がない!」と強く訴えたが、結局ダメ。
落ち込むロンにロジャーは彼の肩を叩いてこう囁いた。
「まあ気を落とすなよ。
ここで働くとはこういうことさ。
今回良い仕事をして成功したら、
私と関わらなくて済む」
(ちなみにロンはその後「ロジャーは搾取映画から足を洗って金を支払え」と不満をぶちまけている)

確かにニューワールドピクチャーズには問題が山積みだった。
人をただ同然で雇い、こき働かす、今で言うやりがい搾取的なものがあったことは間違いなく、ロン達の主張は正しい。
しかし、ロジャーは映画制作において、誰もが自由で楽しいと感じられる環境を作ろうと努力していたことも確かであり、製作者が"出来のいい映画を撮ろう"として金と時間と人材を無駄に浪費する、そんなやり方を誰よりも嫌悪していた。
映画製作者が撮影中に犯したパワハラやセクハラが告発され、大問題となっている今の映画界のことを考えると、何も顧みないで制作に没頭する体験談が賞賛されるなんてことはあってはならない。
だからこそ言う。
この映画はリアルではない。
この作品には映画史が歩んだ学びがない。

アランアーカッシュが『ロックンロールハイスクール』の製作に乗り出した時、ロジャーはアランにこう問いかけた。
「何でロックンロールなんだ?
巷ではディスコが若者に大流行なのに。
ディスコハイじゃダメなのか?」
するとアランはこう即答した。
「ディスコじゃ学校を破壊できないでしょうが!」

本作に足りないものはこれである。
ロックと反抗、破壊と混沌。
即ち、ハルマゲドンだ。

https://youtu.be/gyn0l04d1jY

「『ロックンロールハイスクール』の製作時、監督のアランは私の指示をしっかり守った」
「"私の間違いを正せ"という指示をね」
ロジャーコーマン
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