ギズモX

オッペンハイマーのギズモXのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
2.0
去年と今年にかけて色んな意味で話題を掻っ攫ったクリストファーノーランの最新作。
原爆の父ロバートオッペンハイマーの半生を描いた物語。
米で公開された当時は『オッペンハイマー』は宮崎駿の『風立ちぬ』に似ているという話を聞いたが、実際に見てみるとチャゼルの『ファーストマン』に近い作風だなと思った。

映像表現に関しては画期的であるが、話としては物足りなさが目立つ。
核兵器に対して否定的な割には被爆国である日本や核開発競争相手のソ連は蚊帳の外。
ロスアラモスで起きた臨海事故やマンハッタン計画参加後にコンピュータを作り出したジョンフォイノイマンなど、核の恐怖を伝えるにあたって必要な話はいくらでもあるのに、赤狩りを中心としたアメリカ国内の政治劇に焦点を置いていて、重要なポイントがはぐらかされているように感じる。
ケネディの名前出したのならキューバ危機も映すべきだったのでは。あと、戦時中はナチスだけでなく日本も核兵器開発を行っていたことも伝えてほしかった。

一番気になった箇所は終盤、オッペンハイマーが原爆投下後の惨状を学会で傍聴する場面。
物語序盤で博士がハリファックス爆発事故を説明する際には当時の現場写真をカメラに映しているが、広島原爆だと博士自身にカメラが当たっており、博士の目線の先にあるはずの現場写真は隠されている。
講師が当時の状況を詳しく説明しているにも関わらずだ。
これは意図的な演出だったしても、製作者は目を背けていると捉えられてもしょうがないだろう。
本作には被害に遭われた当事者が欠如してるので、博士が抱く罪悪感、恐怖というのは全て妄想の産物でしかない。
スパイクリーが「私だったら原爆投下のシーンを入れる」と言った訳も今なら理解できる。
スパイクリーが手がけた作品は常に現実を映してきたから。

あと、本作を見終わった後に確信したこと。
今のアメリカは病んでいる。
それも過去に類を見ない勢いで。
そうとしか思えないほどに、後悔を描いた自傷行為に近い作品が次々に制作されて社会的な評価を受けている。
4年前、前回の大統領選挙の直後までは希望があった。道は正せられるという希望が。
でも、それは真逆の結果を招いてしまった。
これからどんどん酷くなっていずれ最悪の事態に陥るんじゃないかという恐怖心が昨今の作品の中に隠れている。
あの時は「選挙に行け」というメッセージが込められた作品が多く公開されたが、今同じことを繰り返して世間が受け入れるかというと僕はそう思わない。
ただ、それでもそう伝えなければならないと思うが。

僕は以前ノーランが監督した『ダークナイトライジング』は出来が悪いと思うけど、あの映画の中で描れた社会というのは今とリンクしているように見える。
ヴィランの画策によってゴッサムシティが占拠され、民主主義の根幹が揺らぐ一大事に、敗北したヒーローが地の底から這い上がり、破滅を防ぐために立ち向かっていく。
今必要とされるべきはそういう作品ではないのか?

そう考えるとあまりいい映画じゃねえなというのが正直な気持ちです。
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