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靴ひものロンドのSPNminacoのレビュー・感想・評価

靴ひものロンド(2020年製作の映画)
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奇しくも『AIR/エア』に続いて、これも靴と契約の話だった。夫から突然浮気を告白された妻、修羅場と泥沼…ってどうしてもベルイマン『ある結婚の風景』を重ねずにいられない。でも80年代はじめから時間は流れ、噛み合わないまま男と女のロンドはぐるぐると回り続ける。
夫アルドの身勝手な行動に絶望した妻ヴァンダは、演じるアルバ・ロルヴァケルのアルカイック・スマイル(アンドレア・ライズボローにそっくり)が凍りつくようにゾッとさせる。間に挟まれた娘と息子も、残酷に矛盾した両親を信じられない。なんと淀んで殺伐した緊張感。
家庭はお互いを抑圧し、傷つけ合い血を流しても縛り合う牢獄だ。なのに夫には、ナポリの家とローマの愛人宅が一足の靴だった。彼はどこへも行けず、靴ひもをほどいては結ぶ。妻もまた、その靴を履かせては脱がす。子供たちの靴ひもの「変な」結び方はいびつな家族の形。
傷口を封じ込めながら現代に暮らす元夫婦は、とあるキッカケでまたそこを抉り出してしまうのだが、年を経るとどこか滑稽でもある。封印したはずの箱は実は容易く開けられるし、めちゃくちゃになった家はもとから壊れてた。ほどけて絡んだ靴ひもをもう結び直す気力もない。そして全部お見通しなのは妻だけでなく、怒りを抑え込んできたのは夫婦だけじゃない。履き古した靴そのものを捨てる子どもたち。
現代を舞台にした近年のイタリア映画って、シニカルな人間描写が多い気がするけど、これもそれぞれの視点が辛辣だ。でも、最後にはなんともいえないカタルシスが。そこがベルイマンとは違うところ。時系列をシームレスにジャンプして繰り返す場面、陽気なジェンガ。明と暗が織りなす組み木細工のような構成が巧みに計算されていた。猫ちゃんは幸せになって!
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