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ドライブ・マイ・カーのMachiのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.0
舞台俳優兼演出家である主人公は、ある日突然最愛の妻を失ってしまう。喪失感に苛まれる彼の出会いと再生の物語。

アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた本作。邦画としては異例なほど高い評価で国内外の賞を取りまくっている。本作にこの点数を付けるのは自分の教養のなさを晒すようで恥ずかしいのだが、自分の点数の基準は好みか否かなのでここは正直に記録しておく。

長尺ながら丁寧に緻密に練られた脚本が評価されているのは分かる。作中のセリフやその演技の一つ一つが人物の内面を表していて無駄がない。演出家である彼のやり方、そのこだわりがこの作品全体の総括となっている構成や、それを説明過多にならずに観客に自然に訴えかける手腕は素晴らしく、素直に感心した。車中内での対話シーンの岡田将生の演技は迫真で、心が揺さぶられるものがあった。

間違いなく完成度は高い。説明セリフをできる限り省き、演技と構成で訴えかけるやり方を、独りよがりにならずに成立させている監督の手腕は素晴らしく、その手法はとても好みでもある。

ただ、自分はどうしてもこの物語の登場人物達に共感できず、終始一歩引いた目線でしか観ることができなかった。

本作の登場人物は皆どこか浮世離れしていて現実味が無さすぎる。脚本家である妻の物語の紡ぎ方やドライバー女性の過去にまつわるエピソードは奇抜さがあって面白いものの、物語が創作であることを意識させられて心理的に距離を感じる。全編通して詩的でファンタジックな、独特の空気感が漂っていて個性が強い。ハマる人間にはハマるだろう。でも、ハマれない自分はどんどん冷めていってしまった。

私が映画にまず求めるものは、生身の人間の人生を追体験するような没入感である。本作の完成度は高いけれど、登場人物が皆血肉の通わない人形のような存在に見えてしまい、誰の目線にも合わせることができなかった。残念だが、自分向けの作品ではなかったということか。
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