真田ピロシキ

TOVE/トーベの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

TOVE/トーベ(2020年製作の映画)
3.5
ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンの伝記映画。ムーミンは夏にムーミンコミックス展に行ったり、ミイのグッズを持っててこの映画も昨日グラニフで買ったミイTシャツを着ていったが、ムーミンの制作秘話を求めると期待には添えない。

映画の主となるのは著名な彫刻家の父を持ち画家としての成功を夢見るバイセクシャルであるトーベの恋愛。この恋愛が男性は政治家のアトス、女性は舞台演出家のヴィヴィカと付き合っていて、どちらも既婚者なのにそれに背徳感を匂わせてない(アトスの妻はトーベに電話して夫を呼び出すように黙認)のが、ガチガチな道徳観から解放された自由恋愛を謳い上げている。父が保守的な男性なのもそれへの対比かと思う。しかし理屈の上では分かっていても実際の感情が上手く行くかと言えば難しくて、パリに行ってたヴィヴィカが別の女性を同伴して戻れば嫉妬して、ムーミンの舞台公演後にヴィヴィカにショックを受けて勢いでアトスのプロポーズを受け入れるもやはり気持ちが揺らぐトーベを見ていると自由恋愛は絵に描いた餅に感じられる。なので煮え切らない話に思えていたが、ムーミンを本業にして成功を収めた後には再会したヴィヴィカとまた愛を交わしても「龍を大自然に帰す」と束縛しない関係を築けるようになっていて、そこには人間として大きくなった進歩的なアーティスト トーベが見える。

フィンランドでは70年代まで同性愛は犯罪とされていたが、劇中でのヴィヴィカとの関係は隠そうとはしているがそこまで差し迫ったようには描かれておらず、愛に大いなる障壁が立ちはだかっているようには見えない。また父も芸術については厳しく意見をしてくるが、家族・恋愛観は特別に保守的ではないのか彼が邪魔者になる事もなく、亡くなった時は普通に惜しまれるように家族仲は良好。この障害の低さはドラマとして物足りなく思う人もいるかもしれない。しかしこれはドラマチックに誇張しまくるより、ともすれば地味に感じられてもLGBTQの物語をどこにでもある普遍的なものにしたかったのではないだろうか。そういった意味で誠実な映画で悪い印象はない。

アーティスト映画らしく美術や衣装が心地良くて、両方とも時間や状況の変化に伴って目まぐるしく変化して目を飽きさせず楽しませてくれる。お目当てのムーミンの絵も度々現れるので、ガッツリムーミンの話をする訳ではないがムーミンファンを満足させるだけのものは有り。