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ライフ・ウィズ・ミュージックのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 自閉症のミュージック(マディ・ジーグラー)の頭の中に思い描く世界が、当初は単なるミュージック・ビデオにしか見えなかったのだけど、放蕩息子(娘)であるズー(ケイト・ハドソン)の帰還から突然、物語はカラフルでポップなミュージック・ビデオの世界観とは違うシリアスな物語を提示し始めて驚いた。というかあの予告編の世界観があらかじめ想定される観客を微妙に狭めている気がする。自閉症、アルコール依存症、HIV、希死念慮。ここには様々な悩みを抱えるマイノリティたちが出て来るが、自閉症の孫に進んで外の世界を体験させようとした祖母ミリー(メアリー・ケイ・プレイス)の無念を思うと言葉が出て来ない。然しながら彼女の死が元で、これまでただでさえミュージックに気を配って来た周囲の人間たちが彼女の人生を見守り、支え、最初は少し年の離れた妹をどうして良いのかわからないズーに気付きを与えて行く。さながらこのマンションはロサンゼルスの街並みに馴染んだ「心の家」であり、苦しみを抱えた人々にとっての「止まり木」のようにも見える。

 オーストラリア出身のシンガーソングライターSIAの物語は、かつてアルコール依存症を克服し立ち上がった彼女の生い立ちとズーの人生とが不意にオーバー・ラップする。彼女は正規の病院では販売されない様々な量のクスリを売り捌くドラッグ・ディーラーとして働くが、クスリで命は生き永らえたとしても病気の根絶(治癒)には至らない。事実、彼女自身も心に深い闇を抱え、祖母ミリーとの交流すら断って生きて来たのだが、どうにもならない理由で自閉症の妹の面倒を見ることになる。ミュージックの人生は朝の目覚めから毎日同じルーティンを繰り返す。白い皿に盛りつけられた2つの卵焼きとケチャップで書かれた口、そして祖母が愛情豊かに編んでくれる三つ編みの喜び。陽の光を浴びながら彼女が大通りを歩く姿は健常者があまり意識しない「生」の喜びに満ち溢れている。隣に住むエボ(レスリー・オドム・Jr)も道路の向かいに暮らす養子の少年も、マンションの管理人であるジョージ(ヘクター・エリゾンド)も全てが愛おしい。不寛容な時代に不意に現れた誠実な作品は人生の処方箋となり、生き難い世の中をもがきながら生きる人々を優しく包み込む。
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