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竜とそばかすの姫の821のネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

ごめんなさい。本作は駄目な方でした。合わなかった。好きなところも、もちろん沢山ありました。それでも、鑑賞時に個人的にノイズと感じてしまった要素を、いい要素が上回ることができなかった(もちろん、私の中で)。

以下、個人の好き嫌いレベルのネガティブな感想になります。嫌な思いをされる方もいると思うのですが、それでも私の感想を読んでいただける方のみ、どうぞお進みください↓


先に好きだったところを書きます。やっぱり映像と音楽が最高。冒頭、Uの世界に導かれる様は圧巻で、IMAXにしなかった事を心から悔やみました。Uの仮想世界はもちろん、高知の「日本の原風景」が大変美しかった。また、高校の様々な部活の様子が流れた時は、もう戻れない学生時代を思い出して、懐かしさにちょっとウルっときた。
音楽については、ミレパが主題歌を手掛けている事もあって大変期待して行ったのですが、期待を上回る素晴らしさでした。作品を形取る「曲」の数々。歌唱シーンに魅了されました。映像の美しさも相まって、沁み入りました。凄くよかった。サントラヘビロテします。

ただ、この素晴らしかった2点をもってしても、作品を好きになれなかった要素が複数あった。
主に「脚本の弱さ/特に中盤以降の展開の突飛さ」と「既視感に溢れた表現」が理由です。

ネット世界の描き方は、匿名の悪意を含めてよく出来ていたと思います。特に、監督や作り手側が実名でネットの世界に触れ、匿名の(時には悪意を含んだ)声に晒されているからこそ、表現がリアルだったように思えました。ただ、「U」の世界の描き方が『サマーウォーズ』をただなぞっているように感じた。サマーウォーズから10年以上が経ち、ネットの世界はより私たちの生活に深く根付き、そこをモチーフにした作品も数多く生まれました。サマーウォーズの時は新鮮に見えた仮想世界も、本作ではアップデートされた様子があまり見受けられず、旧作をなぞっただけの印象に。特に、『レディ・プレーヤー1』のように仮想世界の(資本を含めた)作り込みが深い作品にここ数年で触れているので、本作ではあまり魅力的に映らなかった。Uの世界でもスポンサーとか取り入れたり、「廃墟」などトレンドや人の移動の要素が垣間見えるのに、それらの設定を活かしきれていない雑然たる空間になっているのが残念だった。偏った、漫然と見える設定にいちいち突っ込んでしまいました…。

あとは、竜とそばかすの姫が惹かれあっていく様子がまんま『美女と野獣』で、一気に冷めてしまいました。思えば「Belle」の英題の時点でも明白で、ベルの髪型から薔薇のモチーフ、周りのAIアバターまで、明らかに意識をしたオマージュなんでしょう。これが心躍る演出として響けば、私も楽しめたと思うのですが、ただの二番煎じのように写り、全然作品に入り込めなくなってしまいました。『竜とそばかすの姫』の良さを引き立てる形で引用してくれればよかったんですけどね。匿名世界で竜とベルのが惹かれ合う理由が全く分からず、「引用元がそうだからこの作品でも惹かれあって然るべき」のような展開になっていて興醒めでした。もっとオリジナリティで裏打ちして欲しかった。

そういった既視感で言えば、合唱グループの大人たちとの繋がりも薄くしか言及されないままクライマックスに入ってしまって、「劣化したサマーウォーズ」感が否めず。ぼんやりするヒロインに向かって「あれは恋してるね」「悪い男に恋してる」ありきたりすぎてもういいよ…となってしまった。

あとは、これも完全に個人の感じ方に依る部分ですが、やっぱりオチが好きになれなかった。バーチャルの世界では誰とでも繋がれる。誰もが、誰かの「救い」になれる可能性がある。あなたは1人じゃない。そのメッセージはわかるのですが、それを伝えるエピソードに「児童虐待」を取り上げたのが個人的にダメだった。大人がしでかす最悪の事を、なぜ高校生に解決させる必要があったのだろうか。鈴が一人で高知から東京へ行って向かい合うもの?そして、結局それ、問題は解決してなくないか?という疑念が拭えず。伝えたい強いメッセージは伝わってきましたが、それを運ぶ手法が、私には合いませんでした。
あと、「Uでなら、何にでもなれる」「やり直せる」とUでのユニークネスが冒頭から強調されていながらも、1番秘匿されるべき情報を暴く方向に物語が進んでいたのも少し切なかった。彼女が、彼女のままで歌えるようになったのは心の底から良かったと思うけど。

という訳で、申し訳ないですが好きになれない作品でした。昨日は年間ベスト級とワースト級に1日で巡り合い、稀有な体験をしました。
自分の感想を整理してみると、改めて個人の感性に依る部分が大きいと思う。それだけ細田守監督の作家性が強いという事でしょう。
好きだった方の感想も、沢山読んでみようと思います。
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