いわし亭Momo之助

竜とそばかすの姫のいわし亭Momo之助のレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.1
語るべき言葉を持っていない連中は、自身の薄っぺらい知識と作品を結びつけ、それで事足りた と考える。

『竜とそばかすの姫』というありきたりなタイトルから、フライヤーや書籍、広告等々の代表的なビジュアルから、すぐさま『美女と野獣』を想起した人は多いと思うし、批評家を名乗るヤカラの勘違い発言も たくさん目にした。

細田守作品はこれまでもかなりニアミスがあったのだが、なぜかスルーされてきていて、今回、初めて正面がっぷりよつ という感じになる。まずタイトルが悪い。予告編がつまらない。この二点で今回も敬遠していたのは否めない。しかし何故か この作品は見るべき という虫の知らせ感が強く 実際に映画館に行けたのは、公開最終日の最終回だった。そして、この直感が正しかった と認識したのは、映画開始 僅か3分である。
そして、いわし亭の感想はこうだ。
しまった! である。
何がか? 映画が始まってほんの数分で、この作品を次に大きなスクリーンで見られるのはいつなんだろう? という大後悔である。それくらい、この冒頭の3分間、目くるめく映像の奔流であったベルの歌唱シーンと常田大樹率いる millennium parade の演奏+中村佳穂の伸びやかな歌声(主役の内藤鈴 / ベルの声を充て、ドラマの中の唄も歌った中村佳穂の発見。はっきり言えば、この発見がなければ、この作品は成立しなかった言っても過言ではない)による「U」という楽曲の完成度は圧倒的だった。この3分間を劇場の大きなスクリーンで見るだけで、十分な価値がある。ここで提示された楽曲の完成度はもはやJ-POPという枠組みを大きく超越したものだ。

そしてこのトンデモない事態に、自覚的でない鑑賞者が多すぎることが不満で仕方ないのである。これまでのアニメーション映画に対する認識をJ-POPに対する認識を改める必要があるとさえ感じた。
まず、映像の美しさ 緻密さ これがこの作品にとって最も基本的な点で そのレベルの高さに素直に感動させられるのだ。どの場面をとっても素晴らしいが、とくにヴァーチャルリアリティ仮想空間である“U”の中の映像表現が抜きんでて素晴らしい。驚きなのはベルの台詞が完全にリップシンクしていることで、これまでアニメ最大のウィークポイントとして何度も指摘した微妙な表情による感情表現をかなりなレベルで可能にしている。このことでアニメはもはや実写を越えたと言って良い。こうなると単なる実写の模倣に過ぎないCG表現 例えばピクサー等 の作品は完全に時代遅れの感がある。実写の模倣をするくらいなら、実写で良いのであって、CGにはCGならではの視覚表現があってしかるべきだが、今のところCGはそのレベルまで突き抜けてはいない。アニメにはアニメならではの視覚表現があってしかるべきだが、ついにこの『竜とそばかすの姫』がアニメの次の表現へ突き抜けたのだと思う。その意味で、この作品は画期的なのだ。あのラルフ・バクシが『指輪物語』(1978)を監督して採用して以来、久しいロトスコープ(モデルの動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする手法。初期のディズニーアニメ 例えば『白雪姫』や、この『指輪物語』に触発された手塚治虫が原案・構成・総監督した『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』(1980)で使われている)が採用されているのかもしれない。