ヨーク

クー!キン・ザ・ザのヨークのレビュー・感想・評価

クー!キン・ザ・ザ(2013年製作の映画)
3.8
俺にとっては『未知との遭遇』以上に未知に遭遇しちゃったなこれ感があった『不思議惑星キン・ザ・ザ』ですが本作『クー!キン・ザ・ザ』はそのアニメ版である。監督も『不思議惑星』に引き続きゲオルギー・ダネリアなので高純度なキン・ザ・ザと言えよう。『不思議惑星』の公開が1986年なので35年の時を経て(ロシアでは2013年に公開されていたのだが)新たに描かれるキン・ザ・ザもとい惑星プリュクなのでそれは楽しみではあった。
あったのだが、個人的に一つ大きな思い違いをしていたことがあって、まぁそれはいつもの如く何も下調べをしない俺が悪いのだが、俺は本作がキン・ザ・ザの新たなストーリーだと思っていたんですよ。スピンオフというか外伝というか、何なら前作の続編でもいいけどそういう新しいお話の映画だと勝手に思っていたのだ。でもそこは違いましたね。要は前作『不思議惑星キン・ザ・ザ』のリメイクですね。アニメーションになったことが一番の違いではあるし、細かい差異は多々あるんだけど物語の概要やテーマとかはほとんど同じ。なので観ながら「なんだよ! アニメバージョンになっただけかよ!」という気持ちは無くはなかった。もちろん俺が思い違いをしていただけなので俺が悪いのだが。
あと例によって序盤の30分くらいは結構ガッツリ寝ました。別にリメイクだからがっかりしたとかじゃなくてそこは単に眠かっただけなんだけど、結果として知ってるお話だったので序盤寝たからといって振り落とされることはなかったですね。
まぁしかしだ、思っていたような完全新作ではなかったが映画としてどうだったのかと言われればやっぱ面白かったすよ。理不尽でシュールな展開の中で唐突にやって来る笑えるポイントとか異星の文化の意味不明さとかその辺はちゃんとアニメ版にも継承されていた。あとこれはアニメ化に際しての一番の恩恵かもしれないが異星人たちの外見がちゃんと人間離れしていて良かったですね。『不思議惑星』の方は基本的に実写で全キャラクターを人間が演じていたので全員見た目は地球人だったんですよね。それが本作ではスターウォーズのような多種多様な見た目の異星人がいるのでそこはアニメになって良かったなと思います。とはいえ見た目が我々地球人と変わらないのに異様な言動を取る異星人たちという奇妙さも『不思議惑星』の魅力といえば魅力ではあったのではあるが…。
あとは尺が短くなってテンポよく観やすくなっている。『不思議惑星』のランタイムは135分だが本作は92分。実に40分以上短くなっているのだ。俺は本作を観た後にレンタルで『不思議惑星』の方も見直したのだが(本当はスクリーンで観たことないから劇場で観たかったが予定が合わなかった)ぶっちゃけかなり冗長なシーンが長く続いていた。シナリオ上これはなくても問題ないだろというシーンが相当あったので、バッサリ40分カットしたというのはよく分かる。結果としてかなり観やすくなっているのは間違いないだろう。しかしそこは一長一短で『不思議惑星』を見直していて、うわ~面白いな~、と思ったシーンは大体カットされたどうでもいいシーンだったりもしたのだ。
最初に書いたように本作のオリジナルである『不思議惑星』は俺にとっては正に未知な映画との遭遇であったのだが、その理由としては作品のテーマ自体が文化も価値観も全く理解不能な異星人と言葉通り体当たりのコミュニケーションで徐々に打ち解けていくといったものが単なる高尚なテーマとしてではなくありありと作中に体現されていたからだと思う。一言で言えば何やってんのかよく分からない映画だったもん。普通の映画はよく分からない異世界を舞台にしたって作中で何が起こっているのかはちゃんと理解できるように説明するもんなんですよ。『不思議惑星』はそこもよく分からなかったからね。主役の地球人二人がとにかく地球に無事に帰りたいという、それくらいしか理解できることはなかった。アバンギャルドさとしては凄い。ただそういう作風のおかげでこの世界には俺が知らんだけで何だかよく分からん文化や風習や価値観がたくさんあるのだということを心底分からせてくれる映画でもあった。そしてそのよく分からん事っていうのが作劇上は不要だろと思えるようなどうでもいいシーンに散りばめられていたのだ。
本作『クー!』の方ではその辺の意味不明さがオリジナル版よりは薄れていたような気がする。ちゃんと無駄なシーンはカットされていたし。ただ、ここはもう俺が『不思議惑星』を経験済みだったからどうしようもない部分ではあるのだが、単に事前知識があったから未知感が薄かっただけなんじゃないの? と言われたらそれはそうかもしれない。本作『クー!キン・ザ・ザ』がキン・ザ・ザ初体験であるならばやはりかなり意味不明な作品ではあるかもしれないし、その意味不明さの中に他者性を見出すことはできるかもしれない。『不思議惑星』の記憶を消して『クー!』を観ることはできないのでそこは何とも言えないところではあるのだが、だが何にせよ一度はこういう映画を観て「何だかよく分かんねぇな…」と思いながら席を立ってみるのもいいのではないかなとは思う。
ソ連時代への批評性とかクールでシュールなディストピア感とか、そういうのよく分かんなくてもいくつか笑えるシーンがあると思うのでそれを持って帰るだけで十分ですよ。何かよく分からんけど面白いなっていうところから相互理解への第一歩が始まる、という点では本作とオリジナル版はどちらも共通していると思うね。まぁ初見のインパクトという点に於いて『不思議惑星』の不思議さは筆舌に尽くしがたいものであったとは書いておくが…。
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