永遠の命か、限りある生か。
そんなテーマは70〜90年代の近未来SFで描き尽くされたと思っていた。
医療技術の進歩により、昔よりも不老不死の実現が現実味を帯びてきたいま、あらためてこのテーマに挑んだ作品。
なのだから、もっともっとリアリティがあったらよかったのに、と思う。
台詞そのものも言い回しもやや芝居がかっているし、展開や描写もざっくりとしていて、現実味がない。
老化とは関係のない病気や事故はどうなんだろう。すべてを防げなければ永遠の命を手に入れたとは言えない。
死ぬ人が減れば、人口が増え、紛争も増え、水や食糧や経済などの問題も出てくる。
出生率が減ったとニュースで報じていたが、なぜなのかわからなかった。
数十年の時が流れても、家や機械類や乗り物が全く進化しないのも、個人的には違和感。
時代の経過が感じられないし、映画的に面白くない。
主人公がなぜ「その選択」に至ったのかも、夫を愛していたのかどうかも、よくわからない。
あえてのあっさりした、洗練された描き方なのかもしれないけど、例えば人への愛情とか、生への執着とか、生々しくて強い感情が伝わってこない。
「私は今までいろいろ経験してきた」という台詞があったけど、そのいろいろがなんなのか、それが主人公の考え方にどう影響したのか、肝心のところが見えなかった。
人間はたぶん、今のままで完璧につくられているのだと思う。
人間から見て欠陥に見える老いや死も含め、人体と自然のすべては人間が知り尽くすことのできない繊細で複雑で巧妙な、驚異的なバランスと調和と仕組みのうえに成り立っている。
美しいのは、驚くべきなのは、その仕組みそのものであって、「老いないこと」でも「死なないこと」でもない。そんなふうに思う。
倫理的な問題はさておき、不老不死を実現することは、人間の想像以上に実際的な弊害と混乱をもたらすだろう。
老いは醜いか。死は恐ろしいか。
それは、その人が何を考えどのように生きてきたかによるのかもしれない。
数分間しか登場しない倍賞千恵子さんが、とても美しかった。