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トロピック・サンダー/史上最低の作戦のGreenTのレビュー・感想・評価

3.0
これってベン・スティラーが監督だったって知りませんでした。

落ち目のアクション俳優、タグ・スピードマン(ベン・スティラー)は、『トロピック・サンダー』というヴェトナム戦争映画の主演に抜擢される。東南アジアのとある国でロケが始まったが、英国人の監督デミアン・コックバーン(スティーヴ・クーガン)は、プリマドンナ(わがまま)な主演男優たちをまとめられず、撮影は難航、バジェットがかかりすぎ、撮影中止になりそうになる。

ベン・スティラーが泣くシーンの背景に、$何ミリオンも投資した大爆撃が起こるのに、ベン・ステイラーが泣くことができなくて、カットの後に爆撃が起こっちゃったとか、シンプルに可笑しい。

プロデュサーのレス・グロスマン(トム・クルーズ)は鬼みたいなヤツで、TVコンフェレンスで監督のことをケチョンケチョンに罵倒する。

このプロデューサーは、スコット・ルーディンという実在のプロデューサーがモデルらしいんだけど、『ノーカントリー』や『ソーシャル・ネットワーク』なども手掛けた人らしく、ってことはコーエン兄弟やデヴィッド・フィンチャーもこの人に怒鳴られたのかなあ。

原作『トロピック・サンダー』を書いた元軍人のジョン・“フォーリーフ”・テイバック(ニック・ノルティ)は、俳優たちから真の演技を引き出すため、本物のジャングルにほっぽり出すことを提案する。

後がない監督はこれに同意、自らもカメラを持って参加するが、埋まっていた地雷を踏みつけて自爆する。

しかしタグは、これも演出に違いないと信じて疑わず、ジャングルを根城とする麻薬カルテルから攻撃されても全く動じない。

これ明らかにヴェトナム戦争映画のパロディだし、プロデューサーや俳優のエージェント、原作者などなど、「ハリウッドの裏側」の風刺なんだけど、なんでこんな映画作ろうと思ったんだ?ってそっちのほうが興味湧いてしまった。

原案はベン・スティラーで、『太陽の帝国』に出演中に考えついたんだって。あの頃まだ駆け出しだった若い俳優たちは、『プラトーン』や『ハンバーガー・ヒル』などの戦争映画のオーディションを受けまくっていて、端役で採用されるとブートキャンプに送られる。

スティラーは、他の俳優たちが、ブートキャンプや映画の撮影を経験したことで本当の戦争を体験したような気になっていることが笑えると思ったそう。

そういう俳優たちを風刺しているようで、タグ・スピードマンのキャラは『ランボー』とかやってたシルベスタ・スタローンもモデルになってるらしい。だから「泣くシーンが出来ない」のかなあ(笑)。

で、共演のカーク・ラザラスを演じるロバート・ダウニー・Jr.。この人はいわゆる「憑依型」の役者のパロディ?髪の毛抜いてハゲになるとか、ガリガリに痩せる、ブクブクに太る、みたいな?だけどラザラスは、整形手術で肌の色を黒くして、黒人の兵士の役を演じるという、究極の!(笑)

これって今だったら非難轟々っていうか、当時も非難轟々だったようなんだけど、でもめっちゃ笑える!ロバダウって、わざとらしすぎて鼻に付くときもあるんだけど、この役はこの「やりすぎ」がめちゃハマってて面白い。本当に黒人に見えるし、ギャグのタイミングとかもう(笑)。やっぱこの人すごい名優なんだな。

それに、助演の黒人ラッパー、アルパ・チーノ(ブランドン・T・ジャクソン)に「唯一黒人が活躍できるいい役に、オーストラリアの白人を配役するんだもんな!」と言わせているので、そういうハリウッドを批判しているんだから、いいじゃん!って思う。

ジェフ・ポートノイ(ジャック・ブラック)は普段は下らないコメディばっか撮ってるコメディアンだけどコカイン中毒、爆発物担当のコディ(ダニー・マクブライド)はパイロマニアでミリタリー・マニアなどなど、ここまでハリウッドの風刺をやっているのに、良くこんなバジェット出して制作しようって人が出てきたなあ。あ!これってドリームワークス制作なんだよね。それも笑った。ミラマックスとかじゃないんだ(笑)。

あと、トム・クルーズ、ロバート・ダウニーを始め、結構な大物が嬉々として演じているのも面白い。みんなハリウッドって馬鹿げたところって思っているのか。それとも戦争映画が馬鹿げてると思ってるのか。

あ、そうそう、セリフの中で、知恵遅れを演じる映画を揶揄するのもあったなあ。『レインマン』『フォレスト・ガンプ』『アイ・アム・サム』とか。

出演者の中で一番若手の、まだ駆け出しの俳優ケヴィン・サンダスキー(ジェイ・バルチェル)は、他の出演者に名前さえ覚えて貰えないんだけど、この人だけがちゃんとブートキャンプに参加し、脚本や原作を読んでいる。この人が最後は大活躍するのが良かった。

最後といえば、「憑依型」俳優のラザラスは、役にのめり込んで自分が何者か分からなくなっていて、ケヴィンに「あーもう!あんたの自己不安定感はハンパないな!」って言われちゃうところが爆笑した。「憑依型俳優」って言ったらクリスチャン・ベールがモデル?って思ったら、これはダニエル・ディ・ルイスやコリン・ファレルがモデルなんだって。

で、実は原作は実話じゃなくて創作で、ヴェトナムで地獄の体験をしたと言われていたフォーリーフは、実際はアメリカ国外に出たことがなかったというオチ。「愛国心から書いた創作なんだ!」とフォーリーフが言うと、コディが「お前は愛国心のミリ・ヴァニリだ!」ってギャグがあるんだけど、今の若い人には分かんないだろうなあ(笑)。
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