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ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう/見上げた空に何が見える?のakrutmのレビュー・感想・評価

4.6
街で偶然に出会ってお互いに一目惚れした男女に起こった不思議な出来事を、ジョージアの古都クタイシに暮らす人々の日常とともに映し出した、アレクサンドレ・コベリゼ監督の長編2作目となるファンタジー・ドラマ映画。第71回ベルリン国際映画祭でプレミア上映され、国際映画批評家連盟賞を受賞するとともに、第22回東京フィルメックスでもダブル受賞を果たすなど、国際的な評価を受けた作品。

二度も偶然に出会った男女は翌日に白い橋の脇にあるカフェでの再開を約束するが、邪悪な超自然的存在が二人の外見を変えてしまい、二人はお互いに相手を認識できなくなってしまうというフェアリー・テールがメインプロットになる。しかし、本作は単なるフェアリー・テールではなく、そこにクタイシの風景や人々の日常を映し出すドキュメンタリー風の映像がミックスされていく。そういう作風はとても斬新である。フェアリー・テールだけだと嘘くさくなってしまうし、クタイシの風景や人々の日常を映し出すだけだと単調になってしまうが、それらを上手く融合させることで芸術性と娯楽性を兼ね備えた詩的な作品に見事に昇華させているところは、監督の非凡さを感じさせる。途中からストーリーがほとんど進まないのでファンタジー映画として見ると物足りなさも残るが、ストーリー性の程よい希薄さが個人的にはツボにはまった。手元に置いて、好きなときに眺めていたい作品である。

それから映像の美しさも見逃せない。クタイシはリオニ川の河畔に広がるジョージアで人口第3の都市であり、歴史的にも古くから栄えた都市である。コベリゼ監督によると、クタイシはジョージアの「心臓」であり、ジョージアの文化、政治、スポーツ、科学のすべてにおいて重要な人物を輩出しているとのこと。そんなクタイシの風景を背景に、そこに暮らす老若男女の人々の日常が映し出されている。特に、引きの固定カメラで撮影されるショットで映画の世界を外から眺めるようなドキュメンタリー風の視点にしたり、一方でクローズアップのショットによって映画の世界の中に入り込む視点にするなど、映像技法を駆使してフェアリー・テールとドキュメンタリーを融合させている点も特徴的。個人的には夜を綺麗に撮った映画が好きなのだが、本作でも二人が二度目に出会うシーンを始めとして、光と闇をうまく配置した夜の映像がぞくぞくするほど素晴らしい。ヨーロッパにアジアを融合したようなクタイシの風景そのものも印象的。コーカサス地方に特有の植生がそう感じさせるのかもしれない。

映画の中でサッカーが中心的な道具として使われているし、ワールドカップの話題も出てくる。これは、コベリゼ監督のサッカー好きから来たらしい。インタビューでは、小さい頃に観戦した1990年ワールドカップの決勝でドイツに負けたアルゼンチンの主将ディエゴ・マラドーナの流した涙がとても印象に残ったと述べている。本作の中でも、監督のそんな心情が反映されている。
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