ナーオー

ボーはおそれているのナーオーのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
5.0
こんな映画、アリ・アスター以外に誰が作れる??

『ヘレディタリー 継承』
『ミッドサマー』のアリ・アスター監督最新作。

A24史上最高額の製作費が注ぎ込まれて遂に公開されたが、アメリカではまさかの大ゴケ… 3500万ドルの製作費に対し、回収できたのは僅か1148万ドル…

評価も『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』以上に賛否両論。でもそれが当然と言うべきな映画でした。この映画が好き嫌い、合う合わないは置いておいても一見の価値はあるとだけ先に言っておきます。

アリ・アスター監督が来日した際のインタビューで答えている通り、『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』との共通点が多く、監督自身が『ヘレディタリー』、『ミッドサマー』、『ボーはおそれている』は非公式の三部作と認めており、観終わってから考えてみると、アリ・アスターらしいテーマ、なんなら一番明確な作品でした。

どの作品も家族、親、子供であるのことの重荷に取り憑かれている人の話。『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』以上に、というかあれらとは比べ物にならないくらい尖っていますが、根本的なテーマはこれまでと同じでアリ・アスター監督が描き続ける"家族という呪い"。

しかし本作が前2作と違うところはホラーやスリラーというジャンルを通り越して、新しいジャンルの域に到達していることです。これまではホラーというジャンル映画だったので、複雑なテーマもまだ分かりやすかった。けど本作はホラーでもコメディでもスリラーでない。もうそういうジャンルの域を超えて、アリ・アスター監督のアリ・アスターというジャンルの映画になっており、これまでの監督作と比べても明らかに挑戦的な作品だったと思います。

それは上映時間も挑戦的。ディレクターズ・カットの『ミッドサマー』の170分を超える180分(3時間)ということ。ここでも賛否両論のようで、3時間は流石に長い という意見があるのも当然。僕も正直長いと思いますし、ここ削れるって思う場面もたくさんありました。

けど本作は主人公ボーが体験する悪夢のような不条理な出来事の数々を我々観客に追体験させるためのものであり、アリ・アスター流の嫌がらせだと思いました。この永遠に続く悪夢を我々も否応なく体験させられる3時間。フランク・ダラボン監督の『グリーンマイル』は刑務所の月日や年月の経過を映画の囚人たちの気持ちを観客に感じさせるために3時間使って描いたと言われていますが、本作もそれに近い。

という意味では本作、結構成功しているのではないでしょうか… そう考えると今回の3時間という尺は必要だったのではと考えさせられる。

また本作で面白いのは宣伝にも使われている"オデッセイ"。言わずもがな、"スペースオデッセイ"、『2001年宇宙の旅』。オデッセイという時点で"行って帰ってくる"という映画なんだろうな〜 と予想していましたが、まさか"そっち"に帰る という意味のオデッセイだったとは… だからオープニングは出産から始まったのね… 笑

他にも面白いところはたくさんありました。
ストップモーションアニメ『オオカミの家』を手掛けたチリ出身の映像作家、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャが製作した劇中のアニメーションパートのそれそれは斬新で目を引く、美しいアニメーションやボーのトラウマである天井裏の"アレ"。観た人誰もが困惑したであろう、あの"アレ"…… 度肝を抜かれました。

賛否両論なのは当然。
本作が嫌いな人の気持ちもよく分かる。

でも、その監督にしか作れない、その監督ならではの変な映画。それだけで僕は大好きです。それに興行的に失敗してしまったことからアリ・アスター監督のこういう映画は2度は作られないかもしれない。でも間違いなく伝説的カルト映画の1本になるはずですし、好き嫌いは置いておいても、強烈な映画なので一見の価値は絶対にあると思います。

時間があれば是非とも2回目行きたいです。
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