足拭き猫

ボーはおそれているの足拭き猫のレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.9
なかなか面白かった。あっけにとられた「ミッドサマー」に比べて地味な印象だったけど、あれよりも奇をてらっていなくてむしろ好み。終始ボーはどうなってしまうのか?というミステリーが推進力だった。

以下ネタバレあり。








羊水からはじまりペットボトルの水、風呂、プール、噴水、星空を見上げる海(舟シーンは溝口っぽい)、公開処刑の場と次々に水の場面が出てくるが自分には水というよりも逃れられない家族の「血」に思えた。そういう意味では洋画版「犬神家の一族」感が。一族というよりもこの場合は毒母のゆがんだ愛と束縛だが。ボーははガラスを2回突き破る。中では守られているけれども自立を阻む見えない壁。頭に刺さったガラス片を抜いてもらうと血が流れる。

精神科医や夫婦の家で壁にかけられた絵画は自然の風景なのに、実家では母関係もしくは自分の写真で埋め尽くされている息苦しさよ。そんな監督自身の親に対する気持ちを語りたい作品だと思い、そういう意味での素直さが多分良かったのだろう。自分の母も子供をものすごく束縛して意にそわないと逆上する人だったので本当は辛い作品のはずなのだが、あそこまで怒りが突き抜けていると納得感しかなかった。こういう理由もあってか、欧米の家の中で目にするような家族の写真を壁にべたべた並べるのは自分はやらないし全然性に合わない。

癒しを与えてくれる奥様はホラーと化し、森で会う優しい女性は結局一目散に逃げてしまう(アリアスターって群衆を描く時は分散している人々なのね)。おとぎ話でボーの一生が語られるけどちゃんと完結しない。苦難の末にやっと会えた3人の息子についての最大の謎はどうやって儲けたのかで、妻がいるらしいというだけでひどく曖昧で、しかもボーに女性経験があるとも思えない。疑問が解決しない内に侵入者によって物語が断ち切られるのは母親の恐ろしい執念。ボーが彼女を作ることに対して狂乱して抵抗してた。

ボー以外の人は落下があるのに対してボーはほぼ水平移動しかしなくて、なぜなんだろうと考えていた。で、他の方のレビューで作品の中のすべてが母の手のひらの中での出来事だったと。そういえば冒頭に箱庭も出てきた。壮大に見えるボーの旅も結局はかき割りの中で生きているということか。でもそういうのとは関係なく動き自体は面白く、またひたすら走ったり歩いたりするホアキンに対しては「お疲れ様でございました」とねぎらいのことばをかけたくなり、かつ自分も同じくらい息切れした。

螺旋階段で初めて昇るシーンが出てくるのだが(本当はアパートの外でも上っているんだけどそこは見せておらず)、やっとボーに平安と幸福が来た!と思ったらここも罠。螺旋はDNAにも見える。束の間の平和は母によりことごとく粉砕され何をやっても抗えないボー。

最後まで分からなかったのは入れ墨の男は何?身体に何が描いてあったのだろうか。