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ボーはおそれているのMROのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

きっと夢オチだから早く覚めてほしい、本当のボーはどこで何をしているんだろう?と思いながら見てました。まさかのずっと悪夢だった。というか夢か現実の二元的に捉えるのもナンセンスな、詩みたいな世界。
例えるならホドロフスキー作品をすごく分かる言葉の会話で見届けられたような印象でした。
様々な要素が盛り込まれている気がして、テーマはたぶん型にはまった一言で言い表せるものではないのですが、思ったことをぽつりぽつりと書いていきます。

まず鼓動から始まる導入。
この時点で胎内を連想はしたんですけど、それからの音が全て不快でびっくりしました。嫌な予感の始まりから意識が釘付けになりました。
最初のカウンセリングのシーンを見てから後半までずっと脳裏をチラついた言葉が「罪悪感」。
てっきり殺人くらいの悪いことをしたのかと思ってました。
後半になってやっと分かったそれはきっと母親に対する罪悪感なんですけど、常に誰かに怯え、あるべきこと・やるべきことの義務感に駆られて、逃げ回っている。薬も、カウンセラーにも、医者にも、誰からもそれからボーを救うことはできないんですね。

序盤でアホほど治安が悪いところに住んでいたのも何故?と思ったし、クレカがまさか親の口座から引かれる金だとは思わなかったところで最初の違和感。
そして実家への飛行機に間に合わない連絡をしたときの、自分で何も決められないところ。
自立できてないんだな、と思いました。
そう育ってしまったし、人から与えられてしまったもはやトラウマ(という表現が正しいのかもわからない)に近い価値観に縛られるのは、憎しみを生みますよね。首を絞めたのはそういうことかなと思いました。
陳腐な言葉だけど、親子の呪いを感じました。
母親が言う「子供が欲しかった」「全力の愛を注いできた」のエゴが重苦しくてこんな人間が親になってしまう恐ろしさもあったし、
産まれたくて産まれてきたわけじゃないはずなのにここまで生にしがみついているボー自身も怖かったです。
死んでしまったほうが楽じゃない?と思うシーンいっぱいあった。何でここまで必死に逃げてまで、生きられるんだろう。悪夢のようなお話だからボーは狂人なのかと思いきや、最初から最後まで会話の受け答えはしっかりしていたし、「人は幸せになるべき」「生き続けるべき」という倫理観はあるのだなと思いました。
悪夢みたいに苦しいことの連続だけど、人にものすごく優しくしてもらったり生きる上で足枷になっていたコンプレックスをひとつ克服できたり「これがずっと続いてくれ〜!」と願わずにはいられないほど幸せなシーンも合間に入ってて、なんていうか、人生みたいだな……………と思いました。人生ってたぶん殆どが苦しいものだと思うので…。

父親らしき人物の出現から「ママはやっぱり隠し事をしている!」という不信感が生まれる描写で絶対的だと思い込んでいるはずの価値観の揺らぎを感じました。そこから更に、屋根裏に行くとまさかのモンスターがいるっていうトンデモ展開でこちらからすると納得いかないことだけどボーはその恐怖を純粋に受け入れて母親に許しを乞うところも何とも言えない気持ちになりました。やっぱりまたそこに帰ってしまうのか、、みたいな。

パッと見せられた映像の意味が少しずつ繋がっていくのですが、やっぱり分からないところばっかりなんで何回も見返したい。けどもう2度と見たくない、、、
そう思ってしまう作品でした。
あとそういえば森の劇場を襲撃されて逃げるシーン(ヒッチハイクの直前)で、一瞬木の上あたりに誰かいました、よね……?
母親がずっと監視していたと後から分かったのでその伏線だったんですかね…怖……

「こうあるべき」「こうしなければ許されない」みたいな義務感と上手くできなかった自分への負い目や罪悪感は共存してて、そんな無意識に根付いてしまった足枷は人間みんな誰しもあると思います。
そのひとつをまざまざと見せられたようでした。
自分にとってのそんな「罪悪感」は何だろうなと。
一生かけて付き纏う、逃げたいけど逃げられないそれは自分だけで自覚するのは難しいですよね。
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