もっちゃん

悪い奴ほどよく眠るのもっちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

悪い奴ほどよく眠る(1960年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

黒澤明の社会派ドラマ。高度成長期においてみな前しか見ていなかった時代に苦言を呈した意欲的な作品。

公団と大手ゼネコンの汚職問題が国民の目に届かない水面下で行われている中、次々と役員が自殺していくという怪事件が起きていく。後ろで暗躍する「悪い奴ら」と「正義漢」の静かな戦い。

確かに、社会に対する問題提起を促す作品ではあるが、単純な勧善懲悪ものになっていないのがミソである。公団の副総裁・岩淵は私欲のために部下を殺すこともいとわない悪人ではあるが、その反面自分の娘をかわいく思う親の側面を持っている。
「悪い奴」を絶対的な悪として描くだけでなく、その二面性をしっかりと描いている点は当時の時代背景から考えると評価すべき点である。

そしてその「悪い奴」を討つために、西(三船敏郎)も「悪」に染まっていかざるを得ないというパラドックスも興味深い。法でも裁けない悪人を討つ場合は非合法に、時に残酷な方法に頼らざるを得ないのである。だから、西は心の底から愛する嫁を利用することになる。

そしてそのパラドックスに悩む西の葛藤を丁寧に描いている。残酷にふるまおうとする西の中に、和田(藤原釜足)がズカズカと入ってくるわけだが、彼の役割はかなり大きい。「悪」であろうともがく西と最も「善」を体現する和田の対比が素晴らしい。登場人物、皆が皆「善」でもあり「悪」でもあるのだ。これらはコインの裏表の関係にあり、明確に区別することができない。