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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のBATIのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.4
見事。鬼太郎のオリジンの話の体だが横溝正史作品のようなストーリーテリングで描くテーマは戦中〜戦後〜現代に連なる既得損益と搾取構造への告発。メタとして人命が養分とされる演出に悲鳴をあげそうになった。その矛先は権力者以外の誰にも向けられる。それはパターナリズム/戯画化されたものであろうが、戦場を知り生き残ってきた水木しげるの描いてきたもの。悲しみと怒りの物語であり、希望なき世界で人が人たり得るのは愛、友愛。何故か終幕したあと涙が止まらなかった。

ゲゲ郎のあるアクションシーンの作画が凄くてここは今年のアニメの中でも秀逸なものの一つなのではないだろうか。木内秀信の落ち着いた演技と老獪さを携えた関俊彦のやりとりも小気味良い。抑えてはあるがバイオレンスも容赦ないし、直接の描写はないけれども性暴力を感じさせる話なので、そこは注意が必要かと思います。

キャラクターで消費されるような話になっていなくて、これくらいのテーマと話を実写邦画でも観れるようになると、いいですね...。なんとなくエヴァ旧劇を想起させるっていうかモロに意識しているパートがちらほらあって、あの頃ティーンだった方もこの作品に関わっているのだろうなと感慨に浸ってしまった...。

水木の「くそ!なめやがって!」の台詞で観ていて自分の中のギアが入ったな。特権に縋りつきたい気持ちといいように使われている惨めさがこもっていた。それでいて火を消した葉巻は背広に入れる侘しさ。何ということはないかもしれないが素晴らしいシーンだった。
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