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エンドロールのつづきのBaadのレビュー・感想・評価

エンドロールのつづき(2021年製作の映画)
4.8
見てびっくり、私にとっては、聡明でイキイキとした作りの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ボリウッド』でした。

(グジャラーティー語の映画でボリウッドは変かもですが、言葉が似ているのか、映画館でかかっている映画ほぼ全てヒンディー語のボリウッド映画でしたし、ラジニもヒンディー語吹き替えかもと思われましたので悪しからず)

もしくは、愛に恵まれ成功した『オプー』はたまたハッピーエンドの『渇き』。
(オプー三部作は故淀川長治さんが絶賛していたサタジット・レイのベンガル語映画で、貧しいバラモンの家庭に育った少年の成長譚。『渇き』はグル・ダットの代表作の一本。とにかく暗い。)

映画の中の過去のインド映画へのオマージュが多い上に自然なので、完全フィクションかと思ったらほぼ実話ベースというのにも驚きました。

貧しいバラモンの家庭で、母親は料理上手、やがて子供は家を出ていく、というのはほぼサタジット・レイの『大河のうた』と一緒*ですが、時代が進んで人々も学んだのか、バッド・エンドを見るのは耐えられないと人々が思うほど実際の社会のゆとりがなくなったのか、どちらかは分かりませんが、あれほど厳しい結末ではありませんでした。

20世紀にはありがちな厳しい結末の傑作が前向きなな方向にギアチェンジしつつオマージュされているものの集合体で、とても幸福な時間を映画館で過ごすことができました。

オマージュ元の大傑作がシネフィル好みのグル・ダットとかレイだったりするのに、最後にサラッと作家名と色彩を見せているだけで、劇中使用のフッテージはほぼボリウッドの娯楽大作、宗教的テーマも各宗派偏らずバランスをとっているのには感心しました。

ここ7〜8年、過去の傑作の劣化コピーのヒット作というのが結構目についてうんざりしていたので嬉しい驚きです。

低予算映画ながら、作りは過去のヒンディー語やベンガル語映画の傑作に似ているので、アカデミー賞のインド代表に押されるのももっともなのですが、フルに味わうにはシネフィルの人好みのインド映画を見ていた方がいいので、結構ハードルの高い部分もある映画です。

つまり、この映画は淀川さんや蓮實さんが推すような線に繋がるインド映画だということです。(だから松竹が配給してくれたのか・・・せっかくなので見捨てず息ながく上映してくださいませ。)

あと、フッテージじゃなく映画オリジナルの映像がすごくいいですね。その一点では『ニュー・シネマ・パラダイス』にたとえられたら監督が気の毒だと思いました。

以上は映画についての映画という部分への感想ですが、もう一つ良かったのが家族の描写です。

母親はいつも綺麗な柄のやや高級そうなサリーを着て巧みに料理をしていますが、いいところのお嬢さんで、サリーは花嫁道具として持ってきたものを着まわしているのでしょう。いつも綺麗にしているのは映画向きの演出ではなくて本当にそういう人という設定なのでしょう。監督のお母さんがモデルということですが、実家がしっかりしているなら夫に内緒で色々おねだりとかもしていそう。

主人公が内緒で危ないことをしていても、なんとはなしに把握しつつ手綱はゆるく握りつつも待ちの姿勢を貫いているのはなかなかできないことで、アッパレ!と思いました。胃袋を握るってことは大切ですね(笑)。

お父さんも、主人公には厳しく当たるものの、財産をなくしても、愚痴ったり、酒や薬に走ったりはしなくて立派です。

豊かそうな駅長さんもチャイ売りの子と遊ぶな、と息子に言う一方で、するべき援助は惜しんでいません。

特に素晴らしいのが先生で、サボりや親の暴力(時代設定だとすでに虐待になるのかな?)を把握しつつも、大事なアドバイスをきっちりしている。

映写師のファザルをも含めて大人が子供の扱いを心得ているのですね。

こういう根本の部分が思慮深く作られているので、フィルムが使われなくなった後の様々な出来事をお話とは分かりつつも見入ってしまうのですね。

主人公の光に対しての飽くことのない関心にも共感できましたが、他の方の感想読んでいると、視覚から映画を楽しむタイプの方は絶賛しているみたいなので、絵から入るタイプの方はインド映画知らなくても楽しめるのではないかと思います。

余談ですが、最初に映画館で観た映画のヒロインがアムリタ・シンさんだったので、笑いを堪えるのが大変でした。アムリタさんが、カーリーって、なんかピッタリすぎます。

*バラモンと言ってもレイのオプー三部作は本当に僧侶だったので時代の変化で食べていけなくなっていたのですが、この映画の一家はバラモン階級の牛飼いで元はお金持ちなので、そもそも基礎体力が全然違ったのかも・・・
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他の方のレビューを読むと、『ムトゥ』以前のインド映画を見ていない方は『ニューシネマパラダイス』はまだしも(私はあんまり似てないと思う)、『スタンド・バイ・ミー』に似ていると感じられる方もいるようでとても意外に思いました。

インドの娯楽映画が輸入され始める前はインド映画といえばこれだったインドの芸術映画寄りのアート映画の典型例、家族の描きかたは一般のボリウッド映画と大差がないと感じたのですが・・・
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