【優しさと愚かさ】
俳優志望のステファンと昇給希望のキャロルが抱える悩み。
ステファンは俳優を目指してはいたけどまだまだそんなんじゃ飯は食べていけないから、深夜のオフィスビルでトイレ清掃のアルバイトをしていた。
ある夜、ステファンが掃除のために女子トイレに入ると、鏡に向かって何やらぶつぶつ言っている一人の女性がいた。
彼女の名はキャロル。
彼女は上司に対して昇給をお願いしたいけど、どうやって話を切り出してよいのか分からずに悩んでいた。
便器をゴシゴシと洗いながらも、彼女の切実な言葉が気になってしまうステファンは、彼女が人事部の上司に上手く本音が言えるようにリハーサルをしようと提案する。
お互いの素性も知らないまま唐突に始まるリハーサルは微妙に噛み合わないまま進む・・・。
「オフィスのトイレ」って、完全に仕事モードに入っている状況の中で唯一「プライベートが保てる空間」なのかもしれない。精神的な部分でもね。
冒頭でステファンが鞄に入れていた「オモチャのピストル」は彼の「隠した野心」で、キャロルが話しかけた鏡は彼女が「隠した本心」。
どちらも、「一生懸命」というエネルギーを伴って放出しているはずなのに、結果が伴わない。報われない。誰にも届かない・・・。
「リハーサル」という形で始めた会話は、いつしかお互いの本心を曝け出していく。
「優しさと愚かさは別物よ」
どんなに頑張っていても中々認めてもらえない。
もしかしたらステファンが黒人だから?キャロルが女性だから?
でも、そういう「理由にならない理由」を「仕方がない」と諦めながら生きていくことは「愚かさ」なのだ。
たとえ困難な状況にあったとしても自分を犠牲にしてでも他人の事を考えてあげる「優しさ」とは意味合いがまるで違うのだ。
オフィスの片隅の狭いトイレの中で、自分自身の明日に向けての準備(リハーサル)を行った二人は手を取り合って立ち上がる・・・。
ちょっとだけ二人の行く末も気になるよね・・・ってところでの終わり方の余韻も○
ただね・・・・便器をゴシゴシしたブラシを振り回したらいかん。
あれがなかったら、もしかしたらもっとスマートな印象が残ったかもしれない・・・って感じてしまった。
でも、監督さんは女性だし、きっと女性的な観点から持ってきた飛び道具なのかな・・とも。
(ちょっぴりガサツだけど、根はいい奴)みたいな。
日本人的な衛生観念からすると、ちょっと・・ってみえちゃうけど、価値観とかコミカルのセンスの違いとかなのかな。