600万人の虐殺への報復として600万人の命を奪うという計画について、利いた風な口ぶりで「復讐はいけない」と言えるだろうか。
ホロコーストのおぞましい光景を知識として知っていることと、それが実際に眼前にあったこととは比べようもありません。
ホロコーストを生き延びた主人公が、ユダヤ人兵士から「収容所ではなぜ誰も戦おうとしなかったんだ」と問いかけられて怒りをあらわにするシーンは、両者の感覚が相容れないことをはっきりと示しています。
「幸せになることが最大の復讐」という言葉も、結局は当人以外が軽々しく口にできるものではありません。勇気ある決断によって救われた命があるという、とてつもなく大きな事実だけがただ静かに横たわっている——。