ミュージカルに慣れていない自分にも作風をすんなり受け入れられ、話の構成も良くできている為、思わず引き込まれた作品。
コナーに因縁をつけられ、その彼が亡くなった影響で、不幸にも原因追求の荒波に巻き込まれる形の冒頭。
序盤から主人公エヴァンの頑張りが輝く流れとなっており、精神疾患を抱えている彼だからこそ感極まるシーンが連続する。
彼が取った行動を誰も責められない。
残された者と旅立った者、そのどちらも傷付けない嘘は正義だなと思えた。
コナー家の為、誰も傷付けない道を選んだエヴァンは正しい。
自己保身の気持ちも多少はあっただろうけど、それを差し引いてもエヴァンの言動は許されるものなんじゃないかな。
ただし、話の中盤では色々メッキが剥がれてきてしまう。この点、彼のミスはあったものの、本質的にはやはり被害者気味。
エヴァンは最後まで決して悪くない。
敢えて言うならば収束の仕方がスマートでなかった部分はあるけれど、ずっと板挟みの様な状態だと苦しい。ゾーイとの関係性が進展してしまっているし、どっちにも動けない状態。
しかし、彼は自分の行いを受け止め贖罪。
真実を真摯に打ち明け、事態収束の為ひた走る。
この姿には胸を打たれた。
嘘を本当にしていくかのように、一人で賢明に戦い続ける姿は純粋にカッコ良く、素直に謝るってなかなかできない事。
又、この作品でもSNSの怖さとその破壊力を目の当たりにさせられたのは印象的。
使い方次第で残忍な凶気にもなりうるこのツールの扱いは、本当に難しく困難だなぁとしみじみ。
そして、最後にミュージカル要素についても少し。
当たり前なのかもしれないけど、登場人物達の歌はどれも素晴らしい。
物語に彩りを添える要素となっていて、決してくどくならない様、ポイント毎に差し込まれる。
特にエヴァン役の彼は声質も透き通っていて、高音が安定している為、実に聴きやすい。
ミュージカルに普段行かない人でも『ディア・エヴァン・ハンセン』を鑑賞すれば、たまにはこういうエンターテインメントも有りだな〜と思わせてくれる様な映画だった。