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東京クルドのcyphのレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
4.3
日芸映画祭『移民とわたしたち』にて鑑賞 全員見てくれ、の気持ちでいっぱい 川口在住のクルド青年ふたりの残酷な日常を世に訴えるドキュメンタリー作品として、というのがもちろん第一義ではあるけど、それに加えある特殊な世界に生きる若きたましいのスケッチ、監督の言葉を借りるなら青春映画として 彼らが幼い頃から慣れ親しんだ世界(言語世界)に生きるということは、「ここで幸せに暮らすな」というメッセージを全身に浴びながら毎日を過ごすということ

二月に一度の入管職員との面談では信じられないような音声が実際に録音される 「ビザがないんだから働いちゃだめだよ それが法律なんだから」などと言い募り、「ビザ出せばいいのに〜」と冗談めかして(もちろんそれが腹の奥底から叫びたいほどの本音であることは観衆全員ひしひしとわかる)伝えるオザンに対し、職員は冗談めかしたトーンをそのまま真似るかたちで「帰ればいいんだよ帰れば〜他所へ行ってよ他所に〜」と返す なんてグロテスクなことだろう わたしは難民支援協会に毎月少額を寄付してる、けどその代わりにほとんどの時間彼らのあり得ない苦境を忘れて過ごしてる わたしの無関心がその残酷な言葉に繋がっているのだ、と悲しく打ちひしがれる

それにしても、と無理矢理にでも目を上げると、5年間密着されるオザンとラマザン かたや希望を捨てず努力を続け専門学校への入学・裁判を経て(半ば不本意な形とはいえ)ビザ取得まで果たしたラマザンと、あらゆる夢や希望を打ち砕かれ、かといって故郷で戦いを続けるクルド人たちのようにもなれない、自分はダニみたいだと感じる、虫以下だと類稀な言葉選びで心境を語るオザン 対照的なふたりだと誰しもが思うだろうが、それでもふたりに共通するのは尋常ならざる真っ直ぐさだ 世界全体にいじめを受けているような日々の中でなおこんなにも人間はこうも真っ直ぐであれる(それは「俺は普通じゃないから」「グレちゃってるもん」といった言葉を惜しみなくカメラの前で溢せる素直さも含めて) という事実がどうしようもなく胸を打つ

この国の在り方に対する強い怒りを覚えると同時に、ふたりの青年の飾らない高潔さに目の眩む作品 マイスモールランドとセットで上映会をしたい(してほしい)



▼ 日向文有監督アフタートークメモ
2017年シリア紛争をきっかけに始まった欧州難民危機から、難民という存在に興味を持ち、話を聞きに向かった 日本クルド協会に通って話を聞きながら、青年たちにどう過ごしていきたいの?と聞くと 日本で何をしていいのかわからない シリアやイラクへ行ってISISと戦いたいと答える ISISと戦う存在として、クルド民族に世界が初めて光を当てた そこへの憧れを彼らは強く持っていた その言葉がすごくショックで なぜ彼らが日本で暮らしながら戦地に赴くことを望むのか、それを拾いたいと考えて撮り始めた


その後の彼ら
ラマザン君は、自動車大学校を卒業してビザを取れました(拍手) 本人たちはちょっと納得いってない 家族みんなの裁判だったのに、ビザが出たのはラマザンと弟だけだった しかも裁判で勝ったからではなく、入管側からふたりにあげますけど裁判続けますかと提案があった つまり司法の裁量を示すような前例を作りたくなかったのではないか 日本で生まれた妹ももらえなかった ラマザンもすごく憤っている


一方のオザン君 状況は変わってない 最後車を運転するシーン すごく気持ちが荒んでいた時期で あのあと僕との関係性も悪くなり連絡もつかなくなったが、いまは日本人の彼女と暮らして気持ち的に穏やかになった 映画で出て一緒に登壇することもかなりあって、自分の存在を認めてもらってるという肯定感に繋がってるよう


なぜ彼らふたりに焦点を当てたのか
オザンとラマザンがとても魅力的だったから クルドの若い子たちに7人くらい会った 記者会見に向かってラマザンが一言「攻撃を受けたのは旗じゃない 差別的な意識からだ」と喋った 僕は普段テレビの仕事をしていて、難民のことは企画としてぜんぜん通らなくて、自力でやろうと決めてラマザンへ やっぱり オザンは言語化する能力が高い 一言一言が刺さってくる ふたりは日本に来る前からの幼なじみだった、その関係性もいいと思った 撮り始めたときは対照的だなんて思ってなかった 撮影していく経緯の中で違う道を歩き始めた たまたまそうなった


メメットさん腰紐をつけられ手錠をつけられ通院していた なぜ?
犯罪者であり逃亡の恐れがあるってことだと思う 仮放免はつまり日本滞在が許されていないということ すべては入管の裁量にある


出発点
彼らという人間に興味があった 青春映画だと思っている 県議会議員の方と話す機会もあったけど、健康保険証をつくれないって知らない方もいたりする 法務省には取材はしているけど、映画に盛り込むことはしなかった


入管職員の声
彼らの月に一回の日常だから入れてる 何年も何年も彼らはそれを続けている パンフレットに入管職員の研修教材の文言を載せていて、なぜそういう言葉が出てくるのか つまり彼らを日本から追放することが善なる行為だという信念を植え付けられる仕組みがまずあるということも強調したい
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