よしまる

スターダストのよしまるのレビュー・感想・評価

スターダスト(2020年製作の映画)
3.4
 「ジギースターダスト」として名実共にトップスターとなったデヴィッドボウイ。

 その前日譚とも言うべきアメリカでのプロモーションツアーを中心に、ボウイがいかにしてジギーという、宇宙からやってきたロックスターを演じることになったのか、彼の長いキャリアの中のわずかな期間を抽出して描いている。

 家族全員が精神科医にかかり、特に兄のテリーはまさに入院していたこともあり「世界を売った男」という内面世界に入っていくようなヘビーなロックアルバムを発表したもののメジャーシーンでは受け入れられなかった頃。
 映画にはなかったけれど実際のボウイはこの時を振り返って「家族はみんな医者に行ってから更に悪くなってしまった、だから自分だけは医者には行かない」と語っており、虚像を手に入れて歌を紡ぐことでしか生きる術がなかったことが窺える。

 本作ではそんなボウイの苦悩をジョニーフリンが熱演。シルエットこそ華奢なボウイより少しがっしりした感じではあるけれど、自信家で夢想家、でも孤独と哀しみが纏わりついてもがいている青年を見事に演じていた。監督自身が「伝記にはしたくない」と公言している通り、史実をなぞらえるというよりも、ボウイという稀代のスターを題材にして、ひとりの若者の苦悩をストレートに描いた映画として観るのが良いかもしれない。

 残念なのは肝心のボウイの楽曲が一切使われていないこと。その点では「ボヘミアンラプソディ」や「ロケットマン」とは異なり、ボウイの曲を聴きに行くという見方は叶わないわけで、フリンの歌声がなかなか聴かせるし、ロンソンのギターリフに寄せたサントラも悪くないだけに余計にもったいなかった。

 個人的にはジギーとは一体何者だったのか?とか、ちょっと触れてただけのRCAへの移籍と「チェンジズ」の大ヒット、あるいはゲイであることの告白など、エンディングに向かう前に取り上げて欲しいネタも満載ではあったのだけれど、かと言って消化不良というわけでもなく、詰め込み過ぎず上手くまとめ上げられた青春映画として楽しめた。

 これをきっかけにボウイをアルバムできちんと聴き返したくなることは間違いがなく、まだ70年代のデヴィッドボウイの楽曲に触れたことのない方にこそ観てほしい、そして彼がいかにセンセーショナルで、ここから時代と自分を作り変えて行ったかを聴き感じてもらえたらなぁと思う。