回想シーンでご飯3杯いける

殺人鬼から逃げる夜の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

殺人鬼から逃げる夜(2020年製作の映画)
3.9
通販会社で手話相談を担当する主人公ギョンミの初登場シーン。PC画面越しに中指を立ててきたクレーマーに彼女がどんな対応をしたのかしっかり覚えておこう。

連続殺人事件に聾唖者であるギョンミが巻き込まれるというストーリー。当初は、ギョンミと、同じく聾唖者である彼女の母親の、聞こえない話せないという弱みに付け込む犯人の極悪ぶりに胸糞をえぐられるが、そこから、母娘が手話を使って、犯人が理解できない意思疎通を図り、形勢逆転していく様子がとても面白い。手話や手旗信号をトリックの仕掛けとして取り入れるサスペンスは少なくないが、ここまでがっつり扱っている作品を観たのは初めてだ。

加えて、冒頭のシーンで分かる通り、ギョンミは快活で意思表示をはっきりする現代っ子。一方の母親は聾唖者であるが故に、視覚から状況を読み取る能力に長け、犯人の行動の裏側を読み取っていく。

韓国映画特有の警察の無能さが何度も描かれるが、犯人との対比と言うより、聾唖者である母娘が持つ長所との対比であるように感じる。なまじ音が聞こえている健常者よりも、聞こえていない聾唖者の方が、状況を鋭く捉えている。その対比こそ、本作が描き出すスリリングさの本質なのだと思う。

母娘の体感を表現する無音状態など、演出も凝っていて、エンタメ性とメッセージ性を兼ね備えた、まさに韓国映画らしい作品である。