逃げるし恥だし役立たず

殺人鬼から逃げる夜の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

殺人鬼から逃げる夜(2020年製作の映画)
3.5
聴覚に障害があるヒロインが或る夜、連続殺人事件の現場を目撃してサイコキラーに追われて逃げ続ける、連続殺人犯と聴覚の不自由な女性の逃走劇を描く韓国発のノンストップサスペンススリラー。
凄惨な連続殺人事件に騒然とする韓国・ソウルの或る街、聴覚が不自由なギョンミ(チン・ギジュ)は血を流して倒れている女性を帰宅途中に発見するが、其れは巷で起こっている連続殺人事件の犯人の仕業だった。事件現場を目撃してしまったギョンミは、殺人衝動を抑えられない連続殺人犯ドシク(ウィ・ハジュン)の次のターゲットにされてしまう。全力で逃げるギョンミだが、聴覚が不自由な彼女には追いかけてくる犯人の足音も聞こえなければ、助けを呼ぶ言葉も届かない。母を守るためギョンミは自らが囮となって、知恵と自慢の脚力を生かしてドシクに立ち向かっていくが、ドシクはゲームを楽しむかのように巧妙なワナを使って追い詰めていく…
効果的に張られた伏線、何度もしつこく繰り返されるシーンがあって、恐怖感を確かめておいてのイベント発生の繰り返しが堪らない。まあ流石に最後はちょっと安っぽくなりイライラするのだが、此の手の猟奇殺人モノの韓国映画は恐怖感の煽り方が上手い。
螺旋状に続く坂道や巨大地下駐車場など荒廃した再開発地区を舞台に、意思疎通が上手く出来ないと云う聴覚障害者には圧倒的に不利なシチュエーションで、無音の中で間一髪ですり抜ける車両、音感知照明などの小道具、L字路での交渉のシーンなど、耳の聞こえない主人公の感覚を追体験できる効果により、心理的恐怖の世界に引き込まれる。冒頭から無駄無く畳み掛ける一夜の壮絶な逃走劇も、全く使えない警察、ただただ足手纏いな母親(キル・ヘヨン)、肝心な時にアテにならない元海兵隊員ジョンタク(パク・フン)など、冷静になって細かなことを気にしだすと色々詰めが甘くて、振ったネタを放棄したかのような展開が釈然としないが、其れ等を捻じ伏せる演出は、長編監督デビューを果たしたクォン・オスンの妙技であり、何となく緻密に計算されたサスペンスに見えてしまう。「聴こえない話せない」事により増幅される恐怖を見事に表現してみせたチン・ギジュ(ギョンミ役)は勿論だが、警察署やら自宅にノコノコやって来て『シャイニング(1980年)』よろしくに斧を担いで襲ってきたり、繁華街で言葉巧みに群衆を操ったりと、得体の知れない連続殺人鬼を演じたウィ・ハジュン(ドシク役)の熱演も印象的で、ナイフを手にしたギョンミとドシクのラストシークェンスには一種のカタルシスを味わえる。
エンディングでは笑い合って大団円でみたいになってるけど、元海兵隊員ジョンタクは妹可愛さにギョンミを一度見捨てたんだぞ!