好き勝手なてそ

ニトラム/NITRAMの好き勝手なてそのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
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配信見放題に載り、界隈で話題になってたので鑑賞。
■あらすじ
ニトラムは子供の頃から花火で遊んだり騒ぎ立て近所で厄介者のように扱われていた。
そんなニトラムを母は厳しく接し、父は優しく受け止めた。ニトラムはある日ヘレンという金持ちの女性に出会い、家を出てヘレンと一緒に住まうことにーーという話。

1996年にオーストラリアで実際に起こった無差別銃乱射事件(ポート・アーサー事件)の犯人の軌跡を追うストーリー。

■ざっくり感想
実話ベースなので、作られた小説のように綺麗にことが進まない。
観客側から見ても、ニトラムの思考パターンは一般の人間とは違うため、
最初こそ行動がよくわからなかったものの、段々と「嫌な予感」として次が読めるようになってくる。
でもきっと誰も止めることはできないから、この悲劇がエスカレーター式に進む感じを見守るしかないのがつらい映画だった。

色々なメッセージはあった気がするけど、
私が冒頭からずっと感じてたことは、
自分の子どもがどんな健康状態で、どんなパーソナリティに生まれても、自分が死ぬまではたとえ嫌われてもしっかり育てるんだぞと思い続ける「親」という存在って、なんて絶大なんだろうと思った。

この映画に出てくる母親は、ニトラムを手放しに甘やかすような親ではないけど、私は彼女が一番の理解者であったと思うし、素晴らしい母親だったんじゃないかと全部見てからは思う。
それでも事件を止められなかったことに子育ての難しさを感じた。


ニトラム役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは「ゲット・アウト」で観ていたので、相変わらずキレやすい役が似合うけど、彼が善人役をやってる作品があったらぜひ観たいと思いました。


もっと細かいところは下で記載します。


ーー以下ネタバレ含みますーー


■なぜヘレンはニトラムを受け入れたか
ニトラムは少しのストレスで、怒りの衝動や破壊行動をしてしまう、いわゆる「キレたらやばい」「カッとなる」タイプ。
ただ時が過ぎたらヘレンについても父親についても愛情があったような表現をしていて、自身を抑制できないし、後から自省するという悲しいパーソナリティ。

ニトラムの行動は、最初はつかみきれず、でもそれがまたある角度から見ると面白く、ヘレンも最初はニトラムについて「今まで出会った人間にはない未知数な魅力がある」ように思ったのかもしれない。
でも、ニトラムの中のもう一人のニトラムは、彼が思う通りにならないと突如怒りを暴発してしまうことにヘレンも気づき始める。
ただヘレン自身に子がいなかったことや老後の孤独(犬をたくさん買っていたり)から、自分が死ぬことになるとまでは気づかず面倒を見てしまったんだと思った。

■ニトラムの母親
決してニトラムに甘い顔はしないわけだけど、ニトラムのことを多分誰よりもわかっていた一番の理解者…だと私は思う。
ニトラムを愛し、ただ完全には理解できず、時に怖れすら感じる。

いじめてくる人たちと母さんは同じだと言うニトラムに対し、「私が産んだのよ」と返す母。
このセリフは単純に、
「お腹を痛めて産んだ子を愛していないわけないじゃない」という風に最初は聞き取ったが、
その反面「私が産んだのだから、責任もって育てなきゃじゃない」の意味もある気がした。

このセリフあたりの母の表情からは、これから息子が何をやるかつかめない恐怖と、漠然とした嫌なことが起きそうな不安が見えたし、
手もずっと指先を遊ぶような、明らかに不安を抱えた素振りをしていた。
ヘレンが死んだのも父親が死んだのも、ニトラムが原因だとおそらく母は思ってますからね。

そりゃ実父の葬式にも出せないくらい厄介者だと思ってるけど、それでも責任もって私が正しい道に導かないといけないと唯一考え続けていた人だと思うので、
私はこの母親キャラはすべて見終わったあとにいい印象になりました。

■オーストラリア銃所持事情について
この作品はオーストラリアの銃所持事情について問題提起しているけど、
この事件をきっかけにかなりの数の銃を廃棄したのに、結局今は事件当時より所持数が増えているという事実。
銃事件に限らず、やはり事件が風化をすると過去に重大な決裁がされたものも、だんだん意味のないものに変わり時代が巡ってしまうという例だと思った。