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パリ13区のfujisanのレビュー・感想・評価

パリ13区(2021年製作の映画)
3.8
『美しいモノクロームのパリの風景』

冒頭5分、美しいパリのモノクロームの街並みを観ただけで魅了されてしまった作品。まるでモノクローム写真の名匠アンリ・カルティエ・ブレッソンが撮影した1950年代のパリような街並みで、元々写真をやっていたこともあって、この映像だけでも大満足な作品でした。



映像美だけではなく、内容も素晴らしかったと思います。

監督はジャック・オーディアール。フランス生まれの巨匠ですでに今年71歳になられていますが、この作品が2年前の作品とは思えない、若々しい映画であることに驚きます。

ヴェネチア映画祭で監督賞を受賞したアメリカ西部劇の「ゴールデン・リバー」も、フランス人である彼がヨーロッパで撮影し、まだ野蛮な西部開拓時代のアメリカを描きながらも、テーマは繊細な兄弟愛を描いていた異色作でしたが、

本作も、パリを舞台に、ミレニアル世代(2000年以降に成人になった世代)の4人の男女の愛や人生の葛藤を描いたとても繊細な作品になっていました。



本作のタイトル「パリ13区」。

パリはルーブル美術館がある中心部の1区から、時計回りの渦巻き状に20区まであり、13区は比較的中心部から離れた庶民的な住宅地で、ヨーロッパ有数の中華街があるところです。

本作の主人公、エミリーも台湾系フランス人で、生活には困っていないものの、感情の起伏が激しく、正直すぎる物言いや性への奔放さゆえ、人間関係がうまく築けない若い女性。

そこにルームシェアを希望するアフリカ系フランス人青年のカミーユ、法律を学ぶために大学に復学した年上女性のノラ、セックスワーカーのアンバー・スウィートの3人が加わり、互いに傷つけ合い、愛し合う群像劇になっています。

本作でエミリーを演じたルーシー・チャンは長編デビュー作だったようですが、性に奔放でありながら繊細で他人との距離感がうまく掴めない難しい役柄を見事に演じており、セザール賞などで”今後有望な女優”としてノミネートされたのも頷けます。次回作が楽しみ。

『似ている作品』にもピックアップされていますが、同じくモノクロームの作品で、グレタ・ガーウィグ演じるフランシスが不器用にいろんな人達とぶつかり合いながら自分探しをしていく映画、「フランシス・ハ」とも似た雰囲気がある映画でした。

本作も特に派手な出来事が起きるわけではなく、4人の男女がそれぞれ周りにぶつかりながら微妙な”ずれ”を修正していき、なんとなくそれぞれ、その時点での『良き収まりどころ』に収まるっていう、それだけの映画。

でもそれって、日々、映画的な出来事が起きる訳では無い自分にとってはとても身近なことが描かれていて、過去や現在、身近に感情移入できる映画になっていて、大好きな作品となりました。
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