幽斎

依存魔の幽斎のレビュー・感想・評価

依存魔(2019年製作の映画)
4.0
【幽斎的2023年ベストムービー、ミニシアター部門次点作品】
恒例のシリーズ時系列
2004年 4.4 Calvaire 「変態村」不条理なアブノーマル・ホラー
2008年 3.8 Vinyan 「変態島」舞台がタイで番外編だがテーマは共通
2014年 4.2 Alléluia 「地獄愛」実話ベースのヴァイオレンス・ロマンス
2019年 4.0 Adoratio 「依存魔」本作、ベルギー闇の3部作集大成

「変態村」「地獄愛」Fabrice Du Welz監督が孤独な少年と少女を描くエスケープ・ロマンシング。死んでも絶対に離れない、どんな時代でも、どんな場所でも、偏在するグロリアの戦慄を貴方も括目せよ!。京都のミニシアター、出町座で鑑賞。

事の起こりは「変態村」名付けた日本のトルネード・フィルム、この邦題のお陰で、此処まで付き合うハメに(笑)。私は元クリスチャンですが、原題 Calvaireはフランス語で磔刑、固有名詞「le Calvaire」キリストの磔刑の地はゴルゴダの丘なので、あのジャケ写に繋がる訳だが、日本人で分かる人は少数だろう。邦題も的外れでもなく、プロットの側面が一見すると難解で、映像の質感や長回し撮影と噛み合わない会話の異質な空気感は、変態映画の金字塔「ファニーゲーム」全く狂気のベクトルが異なる点が当時は斬新だった。

続く「地獄愛」結婚詐欺師と被害者の愛?の物語だが、キーパーソンは今回もグロリア。Laurent Lucasはベルギー闇の3部作全てに登場。実話と有るがレイ&マーサ事件は一般的には「ロンリーハート事件」、1940年代に20人以上の女性を殺害したレイモンド・フェルナンデス。戦争未亡人に近づいて財産を奪おうとするが、新聞の恋人募集記事「ロンリーハート・クラブ」から探すので、ソウ呼ばれた。François Truffaut監督も絶賛した伝説のカルト映画「ハネムーン・キラーズ」John Travolta主演でリメイク。変態カップルの殺人行脚は、今見てもドット疲れるのでご注意を。

「変態島」はイギリスが資本参加したので番外編扱いだが今度こそ(笑)、邦題は見当違いにも程が有り「ザ・チャイルド」亜流なんてバカにされたが、東南アジアのダークサイドを垣間見せるスリラーテイスト。幼児誘拐や人身売買等の社会的なプロットと、ベルギー闇の3部作と同じくフランスが制作協力する甲斐合って、作品全体がアート基調なのも特徴。Emmanuelle Béart主演と言うだけでも観る価値は有る、自己責任で(笑)。

原題「Adoratio」フランス語で神を崇拝、無垢なThomas Gioriaが、破滅的で美麗のグロリアを演じるFantine Harduinへの心象を的確に表現。ベルギー闇の3部作の全て配給会社が違うのに、漢字3文字で揃える理由って?。Steven Seagalの沈黙の〇〇か?(笑)。自国語でタイトルを付ける場合、本国の制作サイドの許可が要る。変態村も「Pervert Village」で監督からOK。本作も魔的で純粋だから依存してる、と了解を得た。

ベルギー闇の3部作をコンプリートした感想は、監督がインタビューで答えた様に、共通するのは人間が心に秘める「怪物愛」可視化するテーマを掲げ、多様な感性のスタイリングを、精神経的な心の病で読み解く事で、映画と云うエンタメで分析すら試みる。本作は「信仰愛」を+する事で、クルーエルな映像とは裏腹のポエジーな物語を見事に両立。人の心に宿る夢と現実との絶望的な距離感。慟哭に似た感傷的な思いとワイルドな衝動との距離感。何故その様な境地に至ったかと言えば、ソレは導かれた「愛」に辿り着く。うーん、文字に起こすと凄く芸術的な作品に見えてしまう摩訶不思議。

ベルギー闇の3部作の集大成だが、コレで完結とは思わない。ソレはシリーズに「春」が無い。ベルギーは日本の様な四季は無く一年を通じて雨も少ない。本作は「夏」、変態村は「冬」、地獄愛は「秋」、滑落してるテーマに「嫉妬」が有るので次にも期待したいが、フランスでは無くベルギー映画なのでハリウッドと類似する点は免れない。本作がTerrence Malick監督「地獄の逃避行」オマージュ。地獄愛はLeonard Kastle監督「ハネムーン・キラーズ」。変態村はTobe Hooper監督「悪魔のいけにえ」。監督、図星でしょ(笑)。

サーマル・ポイントは「統合失調症」を観客も正しく理解する事かもしれない。医学的には謎が多く原因不明のまま、医療現場で向き合う事に為る。精神疾患も様々な症例が多岐に渡り、スリラー映画で定番の妄想や幻覚も有るが、「現実との繋がりの喪失」が大きな問題。100人に1人の割合で発症するが、考えや気持ちが纏まらない事は誰でも日常茶飯事、ソレが統合失調症への入口。周りが正しく理解しないと、本作の2人の様に、現実の狭間から地獄へ突き落される。ロミオとジュリエットの様に清らかさ故に人生の歯車も狂いだす。依存魔と言う邦題は間違って無かった、鑑賞後に貴方も身震いするだろう。

3部作の中では本作が良い意味で大人びた、洗練された普通の映画にも見える。だが、異形の度合いが少ない事で、逆に残酷度が増す語り口は中々の高等戦術と言える。重度の統合失調症を患うリスクを負う自覚も無く、純粋に無垢な「愛」と言う目に見えない価値観に堕ちるのは、余りに無謀で凶暴な姿を曝け出されても、タフガイに成ろうとする彼が背負う姿は痛ましくも居り、陰々滅々な未来しか私には見えなかった。結末のその後について、皆さんに1つだけヒントを授けると、なぜ川の下流では無く上流を目指すのか?。

人生はローリング・ストーン(本来の意味)、転石苔を生ぜず。愛は死よりも冷たい残酷譚。
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