幽斎

べネシアフレニアの幽斎のレビュー・感想・評価

べネシアフレニア(2021年製作の映画)
3.8
「気狂いピエロの決闘」Álex de la Iglesia監督がスペイン人が訪れたイタリアで観光客を敵視するグループに命を狙われるトラベリング・スリラー。Tジョイ京都で鑑賞。

私は京都人で室町時代から続く家系の長男ですが、生家近くのウエスティンは元は近鉄なので脅威に感じませんが、リッツカールトンやアマン、ラグジュアリーコレクションが出来る頃には完全に京都の風情は崩壊。観光客で埋め尽くされ無策な門川市長の悪政でホテルが乱立。税金の高騰で洛内に住めず市民は京都市を離れ、税収不足で財政再建団体に転落危機と言うダッチロール。オーバーツーリズムは京都人に何の還元も無く、イタリアのフィレンツェとは姉妹都市、気持ちは良く解る(笑)。

本作はソニー・ピクチャーズが新たに仕掛けるグローバル・ホラープロジェクト「The Fear Collection」Amazonも参画。スペイン版ジャケ写はスタイリッシュなショッカーの出で立ち、中身はスリラー寄りで安心。アメリカでは「気狂いピエロの一発屋で見る価値ナシ!」酷評の嵐ですが、プロットが散漫で取っ散らかってる感は強い。描きたいテーマと映し出されるストーリーは水と油の様に剥離、グループの思想と行動も辻褄が合わない。スパニッシュお得意の不条理スリラーと思えばギリ我慢出来る。

ミステリー小説で言う「Specific」具体性で言えば、観光客の排除が目的なのか、ソレとも過去に纏わる復讐劇か、岸田総理の国会答弁の様にブレブレで、プロットが一本道で無いと理解出来ないアメリカ人には不向きな作風。快楽殺人でアクセルを踏んでも、過去の事件でブレーキを踏む演出が続くが、現実問題として京都は観光客に頼らざる、と言う意味の依存度は低い。寧ろマナーの悪い中国人のゴミのポイ捨て等の環境悪化が深刻、観光業と地元民の分裂はイタリアも京都も同じ。京都は潜在的に宗教法人と学校法人の街であり、同和問題も絡んで綺麗な街とは裏腹に魑魅魍魎で迷宮なのです。

原題「Veneciafrenia」のVeneciaはヴェネツィアですが、freniaはアメリカ英語で精神の障害と言う意味。統合失調症のSchizophreniaは映画の台詞で良く出る。つまり、ベネシアフレニアは病的なヴェネツィア。日本ではベネチアで通りますが、イタリアに詳しい友人に確認したらヴェネチア、ベネツィアではなく「ヴェネツィア」正しいソウなので、私のレビューでもコレで統一。実際に住むと湿気が大変らしいですが、街並みの美しさは映画でも良く解る。イタリアかぁ、一度は行くべきかな←観光公害(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

一見すると観光地で迷惑行為を繰り返す悪質な客への説教映画に見えますが、実際はクルーズ船のデモで亡く為った家族の復讐劇。同じクルーズ船と言うだけで付け狙われ、迸りも甚だしい。観光客では無く船長を狙う方が理屈も効果も罷り通る。スペインのスリラーなので登場人物のミスリードも大雑把、道化師とペスト医師は兄弟。クラウンのコスプレの女がホテルの受付でペスト医師の妻。一方的に観光客が「悪」と言うのは、流石の京都人の私も賛同しかねる。だって、映画を観てる殆どの人は観光客ですやん(笑)。

京都の洛内は港は無く空港も無い日本でも稀な政令指定都市。ヴェネツィアには大型クルーズ船が寄港、5年で観光客が400%増加、1日に75000人が襲来。上には上が居る(笑)。友人に依れば水上ボートが行き交うヴェネツィアの運河は満潮で高潮が発生し建物の地上部分が水浸。映画でもAcqua Altaと言う台詞で分る。もし、観光客で運河が汚染されれば事は重大。COVIDで街がロックダウンしたら運河も透明に成ったそうです。

だからと言って無差別殺人で観光客を減らすと言うのは、余りに筋が通らない。しかも、観光客増加で忙し過ぎる観光側なら分らなくも無いが、犯罪者も分裂して「オーバーツーリズムへの声明」と、単なる快楽殺人犯では、呉越同舟に過ぎない。挙句に自殺するので基地外の遠吠えに終わる。京都は長い年月を掛け観光産業を成熟させリピーターも多い、昔も今も利用者と事業者が一緒に成って行動すれば育てる、支える事に繋がる。本作も何か一つでも建設的な意見が語られれば、評価は上がったと思う。

監督の作品は好きなラインナップも多い。有名は「どつかれてアンダルシア(仮)」だろうが、ホラー「ビースト 獣の日」、ミステリー「オックスフォード連続殺人」、スリラー「刺さった男」、監督の本性が活きた「クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的」ブラック・コメディ。スペイン人が勝手にイタリアの心情を代弁して良いのか些か心配に為る。良い点は、イタリアのスリラー「Giallo」上手くリスペクト。エッセンシャルなオープニングや仮面のアレンジメント等のヴィジュアルは相変わらずセンス良く、テイストが好きなので甘目査定。皆さん、京都の桜は満開ですが、来るなら夏か冬にお越しやす。

撮影がCOVID真っ只中でも観光客がアレだけ押し寄せる、やはり殺したく為る?(笑)。
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