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モガディシュ 脱出までの14日間のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 北朝鮮と韓国(南朝鮮)との反目と融和の題材が北緯38度線により隔てられた朝鮮大陸ではなく、アフリカ大陸で起こったことにまずもって驚きを禁じ得ない。これ程の鉱脈を拾ってきた上に、しかも実話だというんだから二重の驚きだ。1990年、ソウル五輪で大成功を収めて勢いづく韓国政府は国連への加盟を目指し、多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動を秘密裏に行っていた。ソマリアの首都モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は、現地政府の上層部に何とか取り入ろうとしている。一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走し、両国間の妨害工作や情報操作は徐々にエスカレートしていく。極端に言えば、殺しさえしなければ、盗賊やチンピラを雇ってまで裏工作をする北朝鮮側の手段なき方法にまず舌を巻く。ここまで来るとロビー活動にかこつけた政争だ。両国の大使の脇には実力派の若手が配置され、いつ差し違えてもおかしくない雰囲気を孕んでいる。一方で両国の大使は「大使館特権」という絶対的地位を持って黒人を服従させる。既に国家プロジェクトと言える両国の政争状態は、手土産を持って帰るしか許されない状況であり、北朝鮮側は「進展なし」では処刑されるかもしれない。そんな折、両国大使にとって信じられない事件が巻き起こるのだ。

 ソマリア内戦は北朝鮮と韓国とのパワー・ゲームすら木っ端微塵に打ち砕く。政府側と反政府側ののっぴきならない対立構図により、一部の国民は暴徒化し、兵士たちの武器を略奪。殺戮を繰り返した。暴徒にとって治外法権を持つ外国人たちは真っ先に憎悪の対象となったのだ。見えない政争は本物の紛争に吞み込まれ、鉛の銃弾が飛び交う地獄絵図へと変貌を遂げる。政府の機能は停止し、市街は大混乱に陥り、もはや大使館に助けに入るような兵士など誰もいない。まさにあっという間に孤立無援の状況に陥る様は一瞬であり、その後の地獄絵図の様な光景は永遠のように果てしなく長い。特に印象的だったのはやはり、機関銃を持った子供たちの描写だ。現実のリアリティは逸しているものの、彼らが北朝鮮側に機関銃を向けた描写は痛々しく胸に迫る。その残酷で容赦ない銃弾は、北朝鮮大使館にとってある種屈辱的な決定を呑ませることとなる。また受け入れる韓国大使館側にとってもまさに決死の決断だったと言えよう。紛争を圧倒的なリアリティで伝えて来た前半部分とは打って変わり、散々パワー・ゲームを繰り返して来た大使とその家族に突然訪れた深夜の静寂と緊張感が印象的だ。中でもだだっ広い長机でライバルたちと囲んだ食卓の緊張感がひたすら胸を打つ。銃剣の先ではなく、あくまで箸先が軽く触れるか触れないかしただけにしか過ぎないエゴマの葉の繊細な指先の動きはそのまま、リュ・スンワンの勢い任せに見えた物語に、ある種の繊細さと緩急を加えることに成功する。実話とエンターテイメントの共存も完璧で、非の打ち所がない。
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